【第271回】7月『内側からみる国会議事堂-立法府の役割とそれを支える事務局』石川 真一さん@109期

 

Ⅰ.日時 2025年7月16日(水)11時30分~13時00分
Ⅱ.場所 バグースプレイス パーティルーム
Ⅲ.出席者数 37名
Ⅳ.講師

 石川 真一さん@109期

(衆議院事務局憲政記念館 資料管理課長)

 

2004年衆議院事務局入局。議事運営部門(委員部)、調査部門、議長秘書などを経て2025年1月から現職。2011年から2014年には、在英国日本国大使館政務班にて英国議会との窓口を担当。ライフワークだと思っている社会保障政策や英国政治を横目に見つつ、平日は2030年春に開館予定の新憲政記念館のプロジェクトに追われる日々を送り、週末は市民オーケストラなどでトロンボーン演奏(+その運営も…)。

 

Ⅴ.演題 『内側からみる国会議事堂-立法府の役割とそれを支える事務局』
Ⅵ.事前宣伝 テレビや新聞、インターネットで見る国会や国会議員の方々、皆様にはどのように映っているでしょうか。政治改革、国会改革と言われて久しく、それと同じくらい政治不信という言葉もなくなりません。20年近く国会とともに働いてきた(ようやく中堅くらいかなと思えるようになってきた)「中の人」から見える国会の様子について、お話しし、皆さまのご疑問に少しでもお応えできればと思っています。講演では、制度や慣習によってどのような制約があるのかといった解説も加え、ときどき英国議会との比較も交え、あえて逆張り(?)的になるべく徹底的に擁護してみたいと思います(反論・疑問歓迎です)。
Ⅶ.講演概要

はじめに

2004年に衆議院事務局に入局。衆議院事務局の委員部に配属になり、以来委員部や議長秘書など議員の方々と接する機会の多い職場もそれなりに経験し、このほか厚生労働分野に関する仕事を多くしてきたというのがキャリアの中心になっていると思います。

 

(1)国会の役割について

国会の主たる役割をおさらいしておきますと、法律の制定、行政の監視、内閣総理大臣の指名、予算の議決、条約の承認などです。
一口に予算委員会と言っても審議の種類にはいくつかあります。北野高校に関係のある方の写真で説明しますと(松島みどり議員、大石晃子議員、辰巳孝太郎議員を示しつつ)、予算案の審議や、予算案審議以外に国政調査として行われる集中審議などがあります。

 

(2)国会審議、特に法案審議日程について

(法案ごとの審議過程)
国会における法案審議プロセスについて説明します。衆議院に法案が提出される場合についてですが、内閣あるいは議員から提出された法案は議長に提出され、委員会での審議を経て本会議で採決されます。最も長い時間をとるのは委員会です。可決・修正された法案は参議院に送られ、衆議院と同様のプロセスで採決されます。修正や否決の場合は衆議院に戻されます。両院の議決が一致したものは法律として成立し、天皇陛下に奏上され公布されます。参議院に先に法案が提出される場合も基本的に同様です。

議長に提出された法案はまず委員会に付託されますが、重要度などに応じて先に本会議で趣旨説明・質疑を行う場合もあります。近年の通常国会では約20本がそのような法案に当たり、直近では全体の3分の1の内閣提出法律案が該当します。そのうち総理が出席するのは約4本で、このような法案は重要広範議案と呼ばれています。

次に委員会での内容を説明しますと、趣旨説明->質疑->討論->採決という流れで進みます。最初の趣旨説明は「お経読み」とも言われたりしますが、時間は3~5分です。審議の中心は質疑で、大臣への質問を中心に行われています。このほか、参考人に対して質疑を行ったり、連合審査会を開くこともあるほか、委員を派遣して地方公聴会を開いたり、公聴会を開くこともあります。審議途中や質疑後に修正案が提出されることもあり、採決に先立って討論という意見表明の議事があります。最後に採決を行い、委員会での手続きは終了となります。附帯決議という決議が行われる場合もあります。

 

(通常国会日程の全体像と審議日程の例)
通常国会は1月に召集され、会期は150日です。2月、3月は予算審議が中心で、3月2日までに衆議院を通過すれば4月からの新年度の予算執行に間に合うとして、このスケジュールを意識しながら与野党で調整が行われます。2月には他に「日切れ法案」と言われるような4月1日に施行を予定する法案の審議などもあり、税制改正などのため財務金融委員会、総務委員会などが開かれます。

4月になってようやく多くの法案の審議に入るのですが、ゴールデンウィークがあるため会期末までの残りは今年のケースだと実質11週程度しかなく、本会議と委員会、衆議院と参議院で日程をうまく分け合う必要があります。衆議院では本会議の定例日が火曜日、木曜日、金曜日となっており、委員会は水曜日や金曜日を定例日として開会することが多く、対して参議院では本会議を月・水・金の午前、委員会を火・木に開会しています(常任委員会の場合)。これでも重なる日程があるため大臣がすべて出席できるとは限らず、大臣の日程を中心として調整することが重要となります。忙しい大臣として皆さまも思い浮かぶであろう厚生労働大臣を例にとりますと、2024年の通常国会に厚生労働大臣が本会議・委員会に出席した数は120回でした。4~6月のうち最も忙しいある週では7回の会議に出席し、国会での正式な会議として何も予定がなかったのは月曜日の午前中だけということもありました。このほか、火曜日と金曜日には9時から閣議がありますが、委員会がある場合には8時からになることもあります。また、委員会で質問がある場合には質問者から事前に質問内容が提出され、霞が関では前日など事前に答弁案を作成していますが、その答弁内容についての打合せは、忙しいときにはごく早朝から行われることもあったり、国会での会議後に省庁での打ち合わせが入ったりと、多忙を極めています。

 

さて、法案の審議スケジュールを機械的にあてはめてみます。法案の委員会質疑が1回だけの場合を考えますと、例えば1週目の水曜日に衆議院の委員会で趣旨説明を行い、金曜日の委員会で質疑、採決を行いますが、本会議としては2週目の火曜日が最短となります。続いて、参議院ではその2週目の木曜日に委員会で趣旨説明が行われ、3週目の火曜日の委員会で質疑、採決が行われます。そして水曜日の本会議で成立となります。したがって、質疑が1回・1日のみでもその法案の成立に単純計算で2週半かかります。

 

次に法案質疑が2回の場合を見てみましょう。本会議で趣旨説明が行われることも多いのでそのように当てはめてみますと、衆議院では1週目の火曜日にまず本会議で趣旨説明、質疑が行われます。委員会では水曜日に趣旨説明、金曜日に質疑が行われます。質疑は続き、2週目の水曜日に2回目の質疑を行い、採決となります。そして木曜日の本会議で採決し、参議院に移ります。こちらも、衆議院の場合と同様に、金曜日の本会議で趣旨説明・質疑を行うと、3週目に参議院の委員会において火曜日に趣旨説明のみの場合には、木曜日に1回目の質疑となります。4週目に入って火曜日に2回目の質疑と採決を行い、水曜日に本会議で成立となります。この場合は法案の審議終了まで3週半かかります。

 

すべてこのパターンですと衆参で少しずつ空いた枠も発生しますので、実際には次の法案の審議を並行させるとか、場合によっては参議院での審議を先にするといった対応をとってやりくりすることも行います。

 

法律案に対してどのように意見を反映していくかについては、委員会審議では、質疑、討論、附帯決議、修正といった様々な方法がとられます。他にも少数の会派のみによる修正案が提出される場合もありますし、与党であれば内閣提出法律案が提出される前に事前審査という機会もあります。

 

(3)衆議院事務局の役割

衆議院事務局にはいくつかの部署があり、法案の審議プロセスなどに応じて様々な役割があります。例えば、委員部は、委員会・本会議の日程調整のサポートや委員会における議事順序についての助言を行います。
調査局は、法案や政策に関する論点の提示・助言を行うほか、資料の作成や個別依頼への対応を行います。

議事部では本会議における議事順序の調整や内閣・参議院との議案の受領・送付などを行います。もちろんデータでもやりとりしますが、法律案の本体は紙でやりとりされています。

記録部では本会議や委員会の会議録の作成を行っています。

警務部は院内警察、参観対応を行っています。そのほか、バックオフィスとして庶務部や管理部のほか、秘書課・国際部などがあります。

最後に、事務局とは別の組織となりますが、議院法制局は議員立法の条文化支援、審査などを行っています。

このうち、委員部の仕事をもう少し詳しく説明してみます。委員会の開会の前には理事会が開かれるほか、さらにその前に理事懇談会が開かれたりします。さらには、筆頭理事と呼ばれる与野党の代表1名ずつの間での話し合いも事前に行われたりします。制度上、委員会の開会などは委員長の権限ですが、委員長は行司役に徹し、まずは与野党の意見を聞くというのが基本となっています。これらの各プロセスでの委員部の支援の形を説明しますと、委員会本番については委員会で使用する委員長の「次第書」の作成、その準備としては質問の事前通告の取次ぎや答弁者の確認、そのさらに前の段階では与野党協議のための資料準備やデータ提供などです。衆議院事務局全体として、基本的には裏方としてあまり表に出ない雰囲気もありましたが、最近ではNHKのニュースで取り上げられるなど発信の機会もあったりします。

 

(4)国会に向けられる目線

さて、事前にテーマとして挙げさせていただいたように、国会はどう思われているのでしょうか。例えば、日本財団が18歳の意識調査というものを定期的に行っており、政治を取り扱った回として2023年2月に結果が公表された調査があります。現状の国会が有意義な政策の場になっていると思うかという質問に対し、肯定的な回答が19%、否定的な回答が52%でした。新聞やメディアを見ているとさもありなんという感じですが、どうしてこのような結果となっているのでしょうか。

例えば、衆議院事務局では、国会議員の実情を紹介するために、小学生用の国会参観パンフレットの中に「国会議員の一日?」というコーナーを設けました。その内容を紹介しますと、あくまで例という形ではありますが、朝の7:30から22:00まで予定がびっしり詰まっています。私が近くで仕事をさせていただいた印象としても、正直かなり忙しくて大変です。

この上で、先ほどの調査の否定的な回答の理由に対して私なりにコメントしてみます。欠席している議員や居眠りや内職等議論に参加していない議員がいる、という回答に関しては、どのくらい忙しいと理解した上のものであるのか、質問者以外の議員は採決以外にどのように参加しうるのか、といった面があることも理解する必要があるのではないかと思います。

居眠りするなら欠席する方がましという考え方もあるかもしれませんが、委員会には定足数があり、半数以上の出席が必要です。国会の審議はもっとも重要な公務であるというのはその通りと思いますが、出席せざるを得ないという構造でもあります。
政策について十分な議論をしていないとの指摘については、身近で見る限りそうは思えません。あくまで私の印象ですが、しっかりとした議論というのは、どうしても地味な部分があるとも思っております。華々しい質疑や追及がどうしても取り上げられ、その結果として議論が不十分という印象を与えてしまう傾向があるのではと、残念に思っています。

この点、情報の伝え方として興味深い取組を1つ紹介します。政策研究大学院大学(GRIPS)が会議録の文字情報と審議の映像をリンクさせるプロジェクトを行っており、映像と文字をセットにしてより分かりやすい情報が得られると思います。

また、NPO法人(政策NPO)の万年野党という団体が「国会議員ランキング」というのを出しているのは見たことのある方もいらっしゃるかと思います。目立ちにくい活動が日の目を見るという意味では良いのですが、最近では質問をしていないとか議員立法を提出していないとか、ネガティブな面を強調するのに使われるばかりであることを懸念してもいます。

なお、野党は反対ばかり、という意見を聞くこともあるかもしれません。そこで過去3年の通常国会の閣法の賛成率のデータを見てみます。全会一致が2023年は40.7%、2024年は31.1%、2025年は13.8%と下がっていますが、一方で野党第一党である立憲民主党の賛成率を見ますと、2023年は76.3%、2024年は82.0%、2025年は89.7%です。維新はこの間これより少し高い傾向にあります。賛成、反対にはそれぞれ背景もあろうかと思いますし、最近の与野党の構成により賛成率が上がっている面もある可能性はありますが、野党は反対ばかりというと、そうではなく数字の上ではかなり賛成しているとも言えます。

さらに、過去3年の通常国会の閣法の修正や附帯決議の率を見ますと、修正は、2023年は8.5%、2024年は11.5%、2025年は20.7%です。附帯決議は、2023年は67.8%、2024年は77.0%、2025年は91.4%です。昨今の状況も踏まえ、与野党協調がより意識された国会運営となってきている可能性もあります。他方で、質疑に要する時間は長くなっているという声を聴くこともあります。

 

(5)国会の特徴

大使館に出向し、イギリス議会を間近にみる経験もさせていただきました。時間もありませんので2点だけ挙げますと、首相や閣僚の議会への出席は日本の方が明らかに多かったです。また、イギリスでは主要政党において党首の任期が定められていなかったというのも興味深い点でした。

 

(6)いろいろ宣伝

私が勤務する衆議院憲政記念館は、議会に関する博物館です。最近では展示だけでなく、主権者教育の取組も強化しており、例えば児童の皆さんに議場を模した空間で投票体験のプログラムなども実施しています。このほか企画展示を3か月ごとに開催しています。
現在新たな憲政記念館を建設中であり、その建設地である国会前庭には時計塔があります。この時計塔のチャイムは大中寅二さんという方が作曲されました。なんとこの方は北野28期生ということで、私自身も今回の発表の機会をいただく中で初めて知りました。なお、息子さんも作曲家で、童謡の「サッちゃん」、「犬のおまわりさん」などで有名な方(大中恩さん)です。
また、高田馬場管絃楽団というオーケストラにも参加していますので、ぜひ演奏会にもお越しください。

 

 

Ⅷ.質疑応答 大内拓也さん(109期)

Q:イギリスも日本と同じ議院内閣制ですが、日本とイギリスを比べて、日本のすぐれている点はどこでしょうか?

A:日本の議員は真面目だと思います。本会議へもきちんと出席されますし、政策の専門家なども育てようとしています。イギリスでは本会議に参加しない議員も多いですし、専門家の育成という観点でもどちらかと言えばほったらかしで個人任せという印象でした。

 

Q:日本では議場でヤジなどが飛び交いますが、これはどのように考えればいいでしょうか?

A:ヤジについてはコメントしにくいですが、当意即妙なものには、こちらもつい、くすっとしてしまいそうになることもあります。また、ヤジとは違いますが、自分が見てきた中だと、委員会の質問の際に用意した質問の原稿を意識されすぎていたのか、すれ違いの答弁だったり回答が得られていなかったりするのにそれを追求せず次の質問に移ったりして、周りからちゃんと質問するようにと突っ込まれるというような光景は記憶に残っています。

 

 

村井正親さん(96期)

Q:私の経験から言いますと、通常国会150日のうち120日に大臣に出席してもらうのが大変でした。それに応じて委員会の日程調整が大変になります。与党と野党が拮抗している場合はとくに大変でした。委員会には融和的なものも対立的なものもあるのですが、そこで質問です。内閣提出法案に対して与党と野党の距離感の感じ方は行政府と立法府でどのような違いがあるのでしょうか? またどのようなご苦労がありましたか?

 

A:与野党の距離感は委員会の雰囲気などにもよるのかなと思います。また、人間関係がとても重要という印象を持っており、私の携わってきた業務への影響も少なからずありました。例えば、人間関係がうまくいっていると調整もスムーズに進みます。事前にそこまでの関係がないとなると、間に入る立場としてもどうカスタマイズするかを考えることになります。とくに秋に開かれる臨時国会では、それぞれ各党で人事が行われて新たな体制ということも多いですが、議員連盟や議員立法などでもともと議員間にコミュニケーションがある場合とそうでない場合があったりし、それによっても必要な準備が変わったりします。

 

岩佐健史さん(109期)

Q:通常国会150日を除く残り200日は議員の人は何をしているのでしょうか?

A:通常国会以外には臨時国会が60~70日ありますので、残りは130日ほどです。代議士という言葉もありますが、国会がないときに有権者の声を聞くことなどは非常に重要だと思っています。週に何度も地元に帰る人も多いです。

 

Q:通年国会など会期を決めずに審議をしたり、国会が終わって海外に行くとかいうことはありませんか?

A:のんびり審議してよいとなっても、結局審議できる時間が増えればその間にスケジュールを詰め込んでしまう可能性はあると思います。締め切りがあるからこそ、そこまでに決めないと決心するという面もあるのではないかと思います。また、例えばイギリス議会は通年国会と思われていますが、実際には途中で休会期間があります。イギリスでは本会議や本会議場の日程が重要でそれに合わせるように年間単位でスケジュールを組まざるを得ず通年の会期となっていますが、議会の活動日数は実態として日本とそれほど変わらないと思います。海外の調査は重要で、先進的な制度もあれば、日本で語られるほどいい制度ではない、実際はちょっと違うという場合もあり、そうした実感が大事かなと思います。

 

 

Ⅸ.資料

なし

記録:阿瀨始(80期)

Ⅹ.講演風景  ・紹介者は大内拓也さん@109期・講演の最後に、石川さんのトロンボーンを伴奏に出席者全員で北野高校校歌を合唱した。

・歓談時間に河邑(竹島)愛弓さん@109期によるバイオリン演奏(演奏曲:チャルダッシュ)が披露された。

河邑愛弓さんプロフィール

・大内さん、石川さん、河邑さんはオーケストラ部の同窓生。

 

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