【第165回】9月「ドライブレコーダーの人間工学的活用による交通事故防止」

Ⅰ.日時 2016年9月21日(水)11時30分~14時
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店6階
Ⅲ.出席者数 60名
Ⅳ.講師 堀野定雄さん@71期 (神奈川大学工学研究所)
神奈川大学工学研究所客員研究員。早稲田大学大学院理工学研究科博士
課程単位取得満期退学(1969)。神奈川大学工学部講師、助教授/准教授、客員教授を経て現職。
専門は人間工学、経営工学、人類働態学。
ドライブレコーダー協議会初代会長(2008~2012)、現在同協議会顧問。
国土交通省「自動車交通局事故分析委員会」座長(1999~2013)、同「事業用車両事故要因分析検討会」座長(1999~2013)、同「ドライブレコーダーの搭載効果に関する調査委員会」座長(2004~2007)、同「ドライブレコーダーの活用モデル事業調査委員会」座長(2007~2009)、警察庁「ドライブレコーダーを活用した効果的交通安全教育手法に関する調査研究委員会」座長(2007~2009)、現在国土交通省自動車局「自動車運送事業に係る交通事故対策検討会」委員(2014~)。
Ⅴ.演題 「ドライブレコーダーの人間工学的活用による交通事故防止」
Ⅵ.講演概要 今回もパソコンによる多くの映像を写しながら話が進められた。

  1. 最初に、信号の無い交差点におけるタクシーとバイクの衝突事故の現場の映像を見せながら説明が行われた。
  2. バイクを運転していた男もタクシーの運転手であり、休み明けの出来事であった。バイクの男は、自分が交差点に入れば、タクシーはプロが運転しているので必ず止まると判断したとのこと。
  3. ところが、タクシーは交差点に設置されているミラーが、電柱に遮られてよく見えなかったため、止まれなかった由。
  4. これは、「環境に原因があった」という事故になる。事故原因として挙げられるのは、このような(イ)走行環境(Media)(ロ)運転手の未熟というヒューマン・エラー(Man)(ハ)自動車の機械の不具合(Machine)(ニ)営業車の場合の運用管理(Management)の問題などがある。人間工学では事故の要因分析に上記「4Mのコンセプト」を用いている。
  5. 交差点等にあるミラーは日本全国に224万基あるが、問題なしと思われるのは33%しかない。一方危険と思われるものは67%もあり、即時改善を要するものは22%もある。
  6. 安全・事故防止対策の現状には不足を感じる。警察庁の交通事故統計によると、平成26年の事業用トラックの死亡事故件数は330件。しかしこの分すら全事例の個々の分析はなされていない。事故削減に真剣に取り組むなら、ドライブレコーダーの記録を活用し科学的なデータ分析を行う必要がある。
  7. 事業用自動車の事故削減を進める上で、最も問題なのは労働時間が長過ぎることなので抜本的な改善策を講ずる必要がある。要因の一つに、ドライバーの労働環境や負荷に対する荷主の認識不足が挙げられる。安全の取り組みに必要なのは、(1)本人(2)家族(3)会社(4)荷主等の努力・協力という4つの柱。関係者が力を合わせ、有効な対策を鋭意進めなければならない。
  8. 多発する交通事故防止に、映像記録型ドライブレコーダーの効果が改めて注目されている。平成28年3月7日、国土交通省は、貸し切りバスに対し映像記録型ドライブレコーダー装着を義務付ける世界初の決定をした。
  9. これは、新年早々の1月15日未明、乗客39人を乗せ長野県のスキー場に向かっていた大型バスが、軽井沢町の国道18号碓井バイパス左カーブ下り坂を走行中、約100キロの高速で対向車線ガードレールに衝突、5メートル下の斜面に転落し横転。交代要員を含む運転者2人と大学生13人の計15人が死亡した事故を受けて行われたものである。
  10. 国交省はドライブレコーダーの性能基準や事業者レベルの記録活用、指導監督マニュアルの検討を開始し、具体化に入った。
    国内のドライブレコーダーの普及は、特に事故の事前リスクの解明に役立つことが知られるようになり、大きく進展しつつある。航空機事故の死者数は世界で年間1000人以下であり、自動車交通事故死者数の130万人(WHO統計)と桁が違う。航空機事故が起きると関係者はフライトレコーダーを必死に探す。一方、交通事故では、警察官が実況見分調書作成のため事故現場で距離を測定する程度だ。事故過程の科学的分析は皆無で全く比較にならない。
  11. この落差が長年気掛かりだった講師は、2011年当時の運輸省の運輸 技術審議会で、交通事故の原因分析と再発防止のために、フライトレコーダーを参考に映像記録型ドライブレコーダーの開発を提案、採択された。
  12. 国は8年かけて技術開発、効果判定。普及・活用を検討。平成16年にまずタクシー用を公開、平成20年に実用化し、タクシー業界から急速に普及。順次、路線バス、トラック業界に広がった。
  13. 近年、京都祇園暴走事故などドライブレコーダーの衝撃映像がテレビで紹介され、マイカーへの普及を刺激し、社会的関心が広がっている。
    自治体公用車のも25年頃から導入進み、今後の増加が見込まれる。
    講師を中心に22年に設立された民間組織「ドライブレコーダー協議会」の推計(26年)では日本で既に500万台が普及している。
  14. これまでデータ約10万件を分析した横断的所見では、出会い頭事故では概して車速が30キロ以下なら、歩行者や自転車と衝突しても、相手は殆ど無傷で自力で立ち上がる。「生活道路無信号交差点4秒前減速15キロ通過」のための交差点環境整備責任と、それを踏まえた交通従事者の安全ノウハウを、講師は機会ある毎に学内外で広報している。
  15. 映像記録型ドライブレコーダーの活用は、事故減少、事故処理時間と費用削減、安全教育・訓練に有効ということが判った。とわいえ、データ分析は、手動で人間工学視点の映像観察と分類に頼らざるを得ず、いわゆる「データ洪水」は共通の実務課題である。この克服に講師達は自動車技術会ワーキンググループで映像自動仕分け研究を推進中で、近未来に成果を期待している。
  16. 昨今、国内外で自動運転技術開発が活発だが、その性能検証に独立系技術として走行過程記録の確保が必要で、ドライブレコーダー普及の追い風になるだろう。
  17. 安全運転に自信がある運転者は公私を問わずドライブレコーダーを率先導入し、自らその効果を立証する合理性を共有しよう。なお、今後自動運転車と手動運転車が衝突した場合は手動運転車に落ち度があったと見做される懸念がある。そのためにも、自らの車にドライブレコーダーを付けておくことを勧めたい。
Ⅶ.資料  9月スライド-ドライブレコーダー (45MB)

文責: 65期 峯 和男

 

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