【280回】4月「発達障害児・者と共に生きる」

 

Ⅰ.日時 2026年4月15日(水)11時30分~13時00分
Ⅱ.場所 バグースプレイス パーティルーム
Ⅲ.出席者数 56名
Ⅳ.講師

中野 正大さん@77期

1971年 名古屋市立大学医学部卒業、
大学病院・岐阜県立多治見病院にて新生児医学/小児科学研修・医員。
1975年 浜松医療センターにて新生児・小児医療と川崎病の病理・診断・治療の研究。
1986年 岐阜県立多治見病院小児科部長。様々な精神身体症状を呈する不登校・発達障害児童を経験。
2000年 岐阜県立多治見病院小児科で子どもの心相談外来を開設。
2012年 岐阜県立多治見病院退職後 土岐市立総合病院小児科その他の施設小児科に勤務。
2026年 東濃中部医療センター小児科 子どもの心相談外来を担当。
医療専門学校、小中学校巡回相談、教育委員会などで、不登校/発達障害の啓発活動。

 

【資格】
1971年 医師免許取得、
1981年 医学博士学位取得、日本小児科学会認定小児科専門医、日本小児科医会認定子どもの心相談医、医療専門学校小児科講師、多治見市インクルーシブ教育推進委員会委員

 

Ⅴ.演題 『発達障害児・者と共に生きる』
Ⅵ.事前宣伝 私の「子どもの心相談外来」へ不登校や対人関係の不安を主訴に相談に来られる方の約半数に発達障害(神経発達症)があります。過去50年間延べ5000人以上の発達障害の子ども達とその数倍の保護者・学校関係者の出会いから学んだこと「様々な特性をもった人々とお互いに理解し協力しあって共に生きることの大切さ」について、自閉スペクトラム症ASD・注意欠如多動症ADHDを中心にお話します。特性の理解、二次障害とその予防、健やかな心の発達に大切なこと、などについてお話します。愛情豊かな理解ある相性のよい人と環境に恵まれれば、多くの発達障害児・者は発達自立し、発達障害児・者を卒業することを知っていただければ幸いです。
Ⅶ.講演概要

1)発達障害の事例紹介

様々な発達障害の事例を診てきましたが、その中から自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)の併存した特に印象深い具体事例についてお話します。
小学一年生の男児の母親から「叱っても叩いても言うことを聞かない。この子を殺して私も死にたい」という相談がありました。話を聴いてみると、「妊娠出産時には特に問題は無かったが、言葉の発達の遅れがあり、あやしても笑わず、睡眠障害と偏食がひどかった。周囲の子供に暴力をふるい、動き回り生傷が絶えず、絶えず顔をぴくぴくさせ鼻をならす、叱っても癇癪を起し嚙みついたり蹴ったりする。昆虫の図鑑などには没頭するが授業には全く関心を示さず、母親は怪我をさせた子どもの保護者に謝罪に追われる日々だった。」とのことでした。診断結果はASDおよびADHDかつ重症チックでした。
このような場合、児童の特性を理解し、愛情を持って接し信頼関係を築くことが肝要であり、体罰は厳禁です。睡眠障害を改善するメラトニンやごく少量の抗精神薬を使用し心を落ち着かせ、本人の良いところを見つけて褒めることが大切です。本人の心を開く相手となる、一緒に楽しく遊ぶことが第一ステップとなります。診断結果と治療方針を両親と学校関係者に説明し、協力を求めました。本人には「暴力はどんな理由があっても許されないこと」を簡潔明瞭に話して聞かせ、長所を褒めることを続けました。また両親・学校関係者の愛情と理解ある対応が得られました。暴力を振るうことはなくなり、集団行動は苦手ですが、自分勝手な行動をとることが少なくなりました。チック症状はみられなくなり、高校ではサッカーのゴールキーパーとして活躍、技能工として就職、自立されました。母親から感謝の言葉が聞かれました。
本人の回顧によると、子供の頃は体が勝手に動き、複数の人の声や音がするところでは落ち着かなくなり、音が一斉に襲い掛かってくる恐怖があった。親や同級生は自分のやりたいことを妨害し暴力をふるってくる存在だった。次に何が起こるのか不安でたまらなかったが、嫌なことを言葉で伝えることができなかったと述べています。

 

2)ASD/ADHDの特性の理解

自閉スペクトラム症(ASD)は日本人の約2~3%に見られると推計されています。そのうち約40%は注意欠如多動症(ADHD)が併存し、発達性読字障害・書字障害・算数障害を併存する割合も40%程度と推計されています。
ASDの主な特性は、コミュニケーションの障害、社会性の障害、感覚の過敏/鈍麻障害、強い拘り、想像性の障害などが知られています。それらの特性は、特定の分野でのユニークな長所として発現することもあります。脳の司令塔の役割を担う前頭前野などの発達遅滞により、部分に拘り全体を理解することの弱さ、衝動を抑制することの弱さ、他者の視点で思いやること共感することの弱さなどがみられます。被害感や恨みを執拗にもつことに繋がることもあります。そもそも何気ない会話も、相手の表情や声の抑揚・動作を瞬時に読み取って自分を変化させながら即興で行う高度な活動なのですが、ASDの人には困難な活動となるのです。
ASDに併存することがある感覚障害の例として、人の顔の区別ができない、ボールを手で受け止められず顔で受けてしまう、明るい光が突き刺さって見える、特定の音に不快・恐怖を感じる、味覚過敏による極端な偏食、痛覚過敏のため注射が怖い、その一方で殴られても平気、などなど。
しかし、愛情をもって接し続けると、静かな環境で信頼できる人と一対一では心を開いて話すことができるようになります。
注意欠如多動性障害(ADHD)では、注意を集中することができず、興味のない授業中にはボーとしている。テストを受けることに集中できず、白紙提出となる。一方で、興味のあること・報酬の得られるものには過集中し、どんどん突き進むことがあります。

 

3)ASD/ADHDの二次障害とその予防

発達障害児の特性を理解し、愛情ある接し方がないと、児童は周囲から暴言・いじめ・体罰を受けがちです。このような挫折体験・逆境的体験が、被害感・猜疑心につながり不安と恐怖から感情の制御ができずに暴言・暴力の行使や不登校・引きこもりにつながってしまいます。
できるだけ早期に発達障害の診断を行い、周囲が障害の程度に応じた合理的配慮のもとに、本人の自己肯定感(自分には苦手なところもあるが、得意なところもあり、自分は自分で良いのだ)を育てていくようにすることが肝要です。

 

4)健やかな心の発達に大切なこと

妊娠第26週ごろからは胎児は母親の心音・声を聴いています。平和で愛情に満ちた胎児期を過ごすことは大切です。両親の不和や妊娠中のDVなどがあると不安を感じやすい子どもになるという研究もあります。基本的安心感・信頼感は2歳までに確立すると言われていますが、それ以後も母性的人物に恵まれれば、樹立できるとされています。明るい声が飛び交う家庭、生活リズムのある家庭が健やかな心と身体を育むのです。
自己肯定感を育てるキーワードは「ありがとう」「いいね」「やったね」です。良いとこを見つけて発見されたところが発達するのです。障害児にとって相性の良い人、相性の良い環境が大切です。適切な環境が整えば「障害」を卒業することができます。

 

5)特性を発見、活かす

ASDの負と想われる特性、没頭する粘り強さ、細かいところに気づく、共感模倣の無い独創性、他者とは違うところに注目する、金メダルに執着(向上心)、他者にない豊かな感性などを活かして、専門職、研究者、芸術家になる可能性を探ることもできるかもしれません。

 

6)発達障害って 何?

*発達障害は多数派(定型発達者)から少数派(非定型発達者)に対する見方
*定型発達:その時代と社会における認識や関係のあり方を獲得する平均的発達
*発達特性は、その人にとっては障害ではなく、自然のことである
*発達障害は、その人の特性の一部であり、自己肯定感をもってその特性を生活に活かすことができれば、障害ではなくなる
*障害者の存在は、社会の障害の存在を示唆している
*アメリカではLDを「学習障害」ではなく「学び方の相違」と表記している
• 脳の発達速度は様々:早い人、ゆっくりな人
• 人の特性は様々でよい:好きなこと、嫌いなこと
• 人の特性は様々がよい:得意なこと、不得意なこと
• 様々な人がいるから、世の中は楽しい
• 様々な人がいるから、様々な仕事があり、世界は発展進歩する
• 様々な人がいるから、様々な生き方・考え方・夢がある、正解はない、違いがあるだけ
• 自分の得意な特性を活かし、不得意な特性に頼らない方法を工夫し、自己肯定感をもつ
*得意なところ・不得意なところを足して割ると、人の能力はほとんど同じである

 

7)結語

愛情豊かな理解ある相性のよい人と環境に恵まれ、安心感・自己肯定感が育まれれば、多くの発達障害児・者は、自らの力で発達し、発達障害児・者を卒業する。定型発達者(多数派)も非定型発達者(少数派)もお互いの特性を理解し活かし、共に生きる社会の実現が望まれます。

 

 

Ⅷ.質疑応答 家 正則さん(80期)
Q:障害児への母性的人物と周囲の理解・接し方が大事とのお話でしたが、兄弟の中で一人だけ発達障害がみられる例もあるように想います。 遺伝的要因はどの程度あるのでしょうか?

A:障害発生の原因ははっきりとは分かっていませんが、遺伝的な要因と環境要因の両方が作用していると想われます。両親や兄弟に症状がみられる例もあり、遺伝が一因となっている例が確かにありますが、お話したように診断・治療を含めた周囲の環境を整えることが重要だと想っております。

 

Q:機能的核磁気共鳴法(fMRI)で脳のどの部位が活動しているかを測定する技術が進歩していると想いますが、症状につながる脳部位の特定などの研究は進んでいるのでしょうか?

A:病態でお話したようにfMRIで脳のどこが関係しているかの研究もありますが、まだはっきりしたことは分かっていません。

 

配布資料;発達障害児・者と共に生きる講演要旨キーワード

講演資料;発達障害児・者 東京六稜倶楽部 2026年4月15日

記録:家正則(80期)

Ⅹ.講演風景 260416 -2260416 -4260416 -5260416 -7260416 -8260416 -13260416 -18260416 -20