【225回】9月「東京2020オリンピック サッカー競技の舞台裏」

Ⅰ.日時 2021年9月18日(土)14時00分~15時50分
Ⅱ.場所 Zoomによるインターネット開催
Ⅲ.出席者数 89名
Ⅳ.講師 宮崎英津子さん@100期 (公益財団法人日本サッカー協会 競技運営部国際グループグループ長)

1970年:大阪生まれ
1988年:北野高校卒業(高校時代は女子ハンドボール部)
同年   :筑波大学入学(大学からサッカーを本格的にプレー)
1992年:同卒業~日興証券株式会社入社(女子サッカー部)
1994年:筑波大学大学院入学
1997年:同修了
1998年~2004年:イタリア留学(サッカーの指導者資格取得を目指した)
2005年~2010年:アジアサッカー連盟@マレーシア(ウェブサイト日本語版や大会広報を担当)
2011年~現在:日本サッカー協会(代表チーム部→女子部→技術部→競技運営部)
Ⅴ.演題 「東京2020オリンピック サッカー競技の舞台裏」
Ⅵ.事前宣伝 7月11日までのまん延防止等重点措置を受け、7月17日・18日に行われた全国世論調査では、オリンピック・パラリンピックの開催に反対の声が55%だったとか。東京六稜会でも、様々な競技の観戦チケットを購入された方は多かったのではないでしょうか。普通では見に行くことのない、見ることのできないスポーツ競技の世界トップレベルの試合を実際に見られるチャンスはそうそうあるものではありません。しかし、開幕15日前の7月8日、東京・神奈川・埼玉・千葉では無観客とすることが決まりました。

新型コロナウイルスの影響を受け、1年の延期となって2001年7月23日に開会式を迎えた東京オリンピック。サッカー競技はその2日前、7月21日から試合が始まっていました。

男子16チーム、女子12チームがそれぞれ4チームずつのグループ分かれ、東京だけではなく北海道、宮城、茨城、埼玉、神奈川の5都道県、7つのベニュー(※実は6会場となった)で合計58試合を行いました。オリンピックでは女子サッカーはフル代表と言われる年齢制限のないトップの代表チームが出場しますが、男子サッカーは23歳以下の年齢制限があるチームで出場します(今回は大会の延期を受けて24歳以下)。

女子は8月6日、男子は8月7日に決勝戦が行われ、残念ながら日本はメダルには手が届きませんでしたが、無事に全競技日程を終了しました。

大会開催には、東京オリンピック組織委員会だけではなく、国際サッカー連盟(FIFA)、そして組織委員会から実働部隊として委託を受けた日本サッカー協会(JFA)が競技の様々な実務を担いました。私はJFAが担ったコンペティション部門の中の、チームサービス(TS)部門で、参加した各チームのリエゾンオフィサーの統括(女子チーム)という役割でした。

各チームリエゾンオフィサー(TLO)はそれぞれのチームに帯同し、チームが円滑に活動できるサポートをする役割で、チームがストレスなく滞在し、最大限のパフォーマンスを発揮でき、満足して大会を終えて無事に離日するためのお手伝いをします。

TLOたちは、JFA職員のほか、Jクラブの職員やサッカー指導者など、現場をよく知る経験ある人材を揃え万全を期して大会に臨んだものの、予想を超える出来事が次々に起こり、これまでにない難しい現場となっていました。

今回は、東京オリンピックの中のサッカー競技で、試合の場面からは見えない舞台裏について、W-up:いきなりですか!? 前半:コロナとバブル、HT:村って・・・、後半:JFA TRA&LOG、延長戦:まさかの変更と、サッカーの試合の流れに合わせてテーマを付けて、お話ししたいと思います(各テーマは講演までに変更になる可能性があります)。チームサービスとして活動した1ヶ月弱での出来事について、他では話せないこともありますので、どうか今回の講演内にとどめていただきますと幸いです。

Ⅶ.講演概要
この記録は講演概要で、詳細については講演使われた添付のパワーポイントのPDFを参照ください。プレゼンターが話すべきナレーション付きで、詳細を理解するには最適の資料です。(記録者コメント)

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自己紹介や経歴の簡単な説明の後、北野高校100期の同窓生26人に今回のオリンピックの開催についてアンケートを取った結果を説明しました。開催に反対は1%、しかし92.3%が開始してよかったと回答しました。その他、貴重な意見も頂きました。

 

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続いて、One Minutes, One Sports, サッカー編という動画が紹介されました。サッカーが世界で広く愛好されているスポーツであること、女子は年齢制限のないフル代表、男子が原則23歳以下の年齢制限があること、一点の重みがある試合でスリリングな展開であること、北海道、東北、関東など多くのべニューで開催された等が紹介されました。

 

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サッカーの試合は開会式の2日前の7月21日に始まり、決勝は、女子は8月6日、男子は8月7日に行われました。チーム分け、会場、試合数などは事前宣伝で説明。

 

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宮崎さんは、大会運営組織から業務委託を受けたJFAの一員としてオリンピックに関わりました。大会組織委員会の中のスポーツチームの1つ、サッカーチームが競技に関わる業務を行っており、JFAはサッカーチームと連携し、運営に当たりました。宮崎さんはオリンピックに関わるJFAの体制の中、Team Service部門で27名のTeam Liaison Officer(TLO)を纏めるマネージャー2名のうちの1名の立場でした。このTLOは、オリンピックに出場するチームに帯同し、担当チームのトレーニングセッションの予約、ロジスティック、競技関連情報の収集、そして組織委員会・FIFAとの連絡等が主な任務でした。業務期間はチームの入国から出国する迄でした。TLOの1日の仕事は、朝の食事の確認に始まり、練習、試合場の対応、スケジュールの確認、その移動手段の手配、選手村・ホテルへの帰着、夕食の確認、そして報告書の作成などチームに寄り添った活動が求められます。

 

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宮崎さんは本日の講演をサッカーの試合になぞらえて下記のように紹介してくれました。

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90’スタジアム入り……日本代表戦~オリンピックへ

3月25日に日韓国際試合が開催されましたが、バブル方式を採用するなどコロナ禍での初の国際試合となりました。続くアルゼンチン戦はオリンピックの前哨戦として位置づけ、移動のシミュレーションなどを行いました。その後、ワールドカップ2次予選のモンゴル戦、なでしこのパラグアイ戦など、7月シリーズ迄多くの相手との国際試合の中で、コロナ対策、観客への対応などの様々な側面からの国際試合の実施を経て、オリンピックのテストケースとするとともに、本大会に備えました。

 

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ウォーミング・アップ(W-up)……いきなりですか

オリンピックモードに突入するべくTLOの担当チームとの合流日時と場所を決めるため、チームサービスは各国のチームと連絡を取るのですが、実際と異なる、回答が無い、情報が伝わらないと言った困難を何度も経験しました。

一例として、7月14日16時頃、南アフリカチームが突然20:15に成田に到着するという連絡が入りました。この到着の連絡は寝耳に水で、急遽担当TLOと宮崎さん等3名で、22時頃成田に駆けつけたことがありました。入国検査、検疫があるのでチームが入国してきたのは24時を過ぎていましたが、それから選手村に送り届けるなど、波乱含みの幕開けでした。実際、チャーター機で札幌に到着と言いながら、通常フライトで成田にやってくる、自国からの出発の遅れで到着が遅れる、事前キャンプから1名の選手が合流しない等のトラブルがあるチームもありました。オリンピックに参加する各チームはActivity Planを事前に組織委員会を通じ内閣官房に提出してそれを遵守するという義務があったが、「一体なんでしょう」と言う感じを持ったこともありました。

 

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前半……コロナとバブル

コロナの非常事態宣言下のオリンピック開催とあって、感染防止対策には万全の措置が図られました。入国前、入国時のPCR検査を実施して陰性の確認、健康情報の提供が義務づけられました。入国後も毎日、検温とPCR検査を行いました。南アフリカチームでは初戦前に1名の陽性者が出ましたが、濃厚接触者の扱いが問題となりました。競技の実施可否に関わるところでしたが、全員のPCR検査を実施して陰性を確認し、最終的にFIFAの承認、そして対戦相手の日本の承認を得て、プレーできることとなりました。

 

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ハーフタイム……村って

選手村とホテルが宿舎となったが、部屋の割り振り、ツインとシングル、ミーティング・ルームの有無、食事、ランドリーサービスなどで大きな違いがありました。ホテルでは原則、トレーニングと試合以外の外出禁止でしたが、選手村内では行動は自由であったので、他国の選手と交流できるオリンピックらしい環境は選手村だけでした。

 

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後半……JFA(Japan Football Association)、TRA(Transportation)& LOG(Logistic)

宮崎さんの一日は、10時頃出勤、午前中はFIFA/組織委との連絡、午後はトラブル対応、TLOから上がってくるスケジュール調整、20時にTLOから報告が上がってくるので、これを纏めて24時までに会議を経てFIFA/組織委に報告、深夜3時に報告書を作成という毎日でした。

ロジについては、荷物運搬のトラックのトラブルは比較的少なかったが、バスについては、オペレーションセンター、代理店、バス会社という多重構造になっていて、連絡がスムーズに行かず、最後までトラブル続きでした。一例として、スウェーデンチームが仙台から東京への新幹線に乗り遅れるという時間が発生しました。ホテルから予定通りバスで出発したが、運転手が道を間違え、新幹線に間に合わなかった。一両貸し切りが原則なため、結局2時間後にようやく手配でき、選手村に入る時間が大幅に遅くなり、チームはカンカンという始末でした。

 

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アディショナルタイム……まさかの変更

酷暑を理由に8月6日11:00国立競技場でのキックオフが、前日の5日になって時間が21:00、場所が横浜国際競技場に変更となりました。また、男子3位決定戦が女子の時間帯と重複するため、20:00 キックオフが18:00に変更されました。酷暑は以前から予想されていたことであり、あまりに唐突、前代未聞のスケジュール変更でした。

 

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東京2020を振り返って-最後に

・準備の大切さを痛感した。多くの競技が一斉に行われるスケジュールでの宿泊、輸送、移動に問題があった。
・大規模イベントの開催の難しさを知った。オリンピックの仕組みは個人競技に向いていて、団体競技は大量、同時輸送が必要となるので困難が伴う。
・コロナ禍での開催でしたが、感染対策では今後への貴重な経験となる。
・競技観戦を通じて世界のトップレベルの選手のレベルの高さを実際に感じる・見ることができる。これによって、子供たちがスポーツを始めるきっかけになる。あるいは、様々なスポーツをライブで観戦するきっかけになる。多くの人々が「体験」「感動」「経験」を得られるはずで、これが、個人的には大会最大のレガシーになるはずでした。でも、殆どが無観客開催でこの機会が失われたのは残念。

 

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質疑応答(敬称略)

Q: 白石俊己(89期) テストイベントと本番の差を感じましたか。

A:テストイベントはJFAが中心で運営した。本番になると組織委のスタッフが多く参加したが、JFAが主体となって運営してきた。

 

Q:清徳則雄(79期) ワクチンを関係者に接種するとバッハ会長は言っていたが、実現できなかった。

A:これに関しては、宮崎さんは答える立場にないとして、JFA、組織委の関係者は接種できたが、ボランティア―については、全員が出来ていないと思う。

 

Q: 清徳(79期) 行く先を変えるだけなのに1時間もかかるのは、厚労省のお役所仕事のせいでしょうか。

A:確かに我々も、「お国の仕事だな」と思うようなことが多かった。

 

Q:三角智子(94期) まだサッカーが一般的でなかった時に、サッカーを始めたきっかけはは何ですか。

A:高校ではハンドボール部に入りましたが、知り合いから「女子のチームを作ったのでやらないか」と誘われました。サッカーの練習は日曜だけだったので、月から土はハンドボール、日曜はサッカーという生活でした。

 

Q:多賀正義(76期) 話を聞いていると、TLOという仕事はツアーのコンダクターのような仕事のように思えました。日本人は、団体行動に慣れているので、出発時間を守ると言われているのですが、時間が経っても来ないという事態は起こりましたか。

A:さすがに国を代表するトップレベルの選手たちで規律遵守の精神が高く、時間にルーズという問題は無かった。

 

Q:坂田東一(79期) コロナ対策は如何でしたか。

A:上記8.前半 コロナとバブルで話したように、陽性の感染者がでたのは、南アフリカの1名だけでした。濃厚接触者も陰性で、彼等は試合に出ることができました。罹患者ではウイルスが体内に残っているという事も6月の試合で経験済みだったので、過去の経歴にも注意を払いました。

 

Q:栗飯原照彦(84期) 男女とも思うような成績が残せなかったが、それぞれの試合後の心境は、いかがでしたか。

A:男子はすぐにW-Cupの予選が始まったので、それに集中していたし、あくまでもオリンピックは年代別の大会なので、選手たちのゴールはそこではなくA代表。女子については、フル代表という事で、ステータスの高い試合でした。日本では、代表強化にもつなげるべく9月に女子のプロリーグが開幕し、そこでの活躍を期して気合を入れているようです。

 

Q:村井雄(73期) オリンピックは商業主義に流れているように見えるが、これに対する意見は如何ですか。

A:この質問に答える立場ではないとしながら、オリンピックが商業主義化したのはアメリカのLA大会以来と言われている。サッカーについて言うと、男子ではU23という事で、先ずオリンピックに対するリスペクトは比較的低い。また、プロ選手はクラブに所属しており、FIFAの決まりではオリンピックへの選手派遣義務がありません。一方、ワールドカップ予選などの公式戦は派遣義務があり、大会の扱いが異なっています。多くのスポーツで選手がプロ化していることを考えると、アマチュアスポーツの祭典という意味では、オリンピックには課題がありそうです。

 

Q:雫石潔(73期) TLOはボランティア―ですか。

A:TLOは半分程度がJFAからの派遣、残りはJリーグの職員や外部の指導者などでした。Liaison業務は、サッカーに対する専門的な知識と、言葉の問題があるので、それがボランティア―でない理由です。組織委員会とJFAが交わした業務委託契約に、リエゾンの派遣も含まれていたため、日当も業務委託料に含まれていました。

 
【記録:多賀正義(76期)】

Ⅷ.資料 東京六稜倶楽部_0918発表用_ver._final.pdf(8MB)