【第190回】10月「わが国の防災:昔と今とこれから ― レジリエントな社会をめざして」

Ⅰ.日時 2018年10月18日(木)11時30分~14時
Ⅱ.場所 The BAGUS PLACE
Ⅲ.出席者数 44名
Ⅳ.講師 中島正愛さん@82期(鹿島建設(株)顧問・(株)小堀鐸二研究所代表取締役社長)
1970年に大阪府立北野高校を卒業後、京都大学工学部建築学科に入学、同大学、同大学院修士課程を修了後渡米、1981年にPh.D.号を取得。
帰国後、建築省建築研究所に入省、その後神戸大学工学部を経て、2000年から京都大学防災研究所教授。
その間、防災科学技術研究所兵庫耐震工学センター(通称E-Defense)所長、京都大学防災研究所所長、内閣府主宰の府省庁連携プロジェクト(通称SIP)のプログラムディレクター(PD)、日本建築学会会長等を併任。
30余年にわたる教育・研究活動の間に200余編の論文を国際学術誌に掲載するとともに、35名を越す人材を世界各地の大学教員として輩出。
国際学術誌:Earthquake Engineering and Structural Dynamicsのエディター職、国際地震工学会の会長職、イタリアパビア大学、中国清華大学、中国東南大学、中国大連理工大学等の客員教授職を歴任する他、米国工学アカデミー(National Academy of Engineering)外国人会員、メキシコ工学アカデミー外国人会員に推挙。
国内では、日本建築学会奨励賞、同会論文賞、日本鋼構造協会奨励賞、同会論文賞、文科省ナイスステップな研究者表彰、日経BP技術賞、兵庫県功労者表彰、防災功労者防災担当大臣表彰を受け、国外では、米国土木学会Moiseiff Award, 同会Howard Aaward、米国鋼構造協会Special Achievement Award、米国地震工学会Housner Medal等を受賞。
2017年3月に京都大学を定年退職(京都大学名誉教授)後、鹿島建設(株)顧問と、(株)小堀鐸二研究所の代表取締役社長に就任、現在に至る。
Ⅴ.演題 わが国の防災:昔と今とこれから ― レジリエントな社会をめざして
Ⅵ.事前宣伝 「地震雷火事親父・・・日本は自然災害のデパートと言われるほどに、古来さまざまな自然災害に見舞われてきました。しかしながら私達の先人達は、これら災害と共生するという考えの下に、多種多様な技術や知恵を磨き上げ、わが国繁栄の基盤を作ってくれました。災害の程度は、地震など災害を引き起こす自然現象の大きさだけではなく、それを受ける社会の災害に対する弱さ、これを脆弱性と呼びます、にも左右されます。21世紀の日本は、地震活動が活発になり、また極端気象と呼ばれる風水現象も激化し、一方で高度稠密社会がもたらす極度の相互依存が、ひとたびことが起きたときに次々と綻びをみせるという脆弱性も増すなど、巨大災害が起きやすい状況にあります。

さて災害にどう備えるのでしょう。一般に、それは「予防」「予測」「対応」という三つの因子からなります。洪水に備えて堤防を作る、地震に備えて耐震補強するなどが「予防」の典型例で、これは防災の王道です。雨レーダを使っての雨警報は「予測」の例で、予測に応じてダム貯水を事前に放流するなど、災害を察知して先手が打てます。そして「対応」、道路をどの順番で復旧させてゆくかなど、災害が起こってしまったときの被害を最小限に留めるための作戦を考えるものです。20世紀の防災では、堤防に代表される予防がその中核をなしていました。また1990年代以降、観測計測技術の発展に伴い予測も磨かれてきました。そして東日本大震災の大津波と超高域被害を受けて、巨大な津波が来ると予防や予測にいくら努めても、社会を無傷に留めることは難しいことが明らかになりました。そこで、傷を受けても機能の低下を最小限に食い止めそして速やかな回復を実現するための対応の重要性がますます認識されるようになりましたが、これは最近「レジリエンス」という名前で呼ばれます。私の発表では、わが国を巡る幾多の災害のなかで、それがひとたび起これば社会に及ぼす影響が最も計り知れない地震災害を取り上げ、1995年の阪神淡路大震災から現在に至るまで、わが国が「予防」「予測」「対応」においてどのような技術を開発しそれを実践に移してきたかを概観するとともに、社会としての「レジリエンス」確保や、また企業「レジリエンス」に深く関わるBCP(Business Continuity Plan)の実現に向けた最近の動向を紹介したいと思います。」

Ⅶ.講演概要 出席者には10頁(60コマ)の詳しい講演資料が配付されたので、今回はその中の主要項目を抜粋し、要旨を抽出して、講演録をまとめることと致したい。1.わが住処の安全と危険・阪神・淡路大震災(1995年1月の兵庫県南部地震)は最大震度7を記録したが、その被害は(建設年代によって)明暗を分けている。
・建設年代で被害レベルを比較すると、1965年以前が圧倒的に大きく(“倒壊/大破”が50%弱)、順次被害レベルは小さくなって、1991年以降では100%が“軽微/無被害”である。
・耐震工学は、被害地震(1964新潟・1968十勝沖など)から“学んで”その技術を発展させてきたが、阪神・淡路大震災からは「耐震補強」技術が進展してきている。

 

2.地震とその

・“マグニチュード”(M1~M8)は、地震の大きさ(エネルギー)を表す指標である。対数(logbx)で表示されるため、数値(x)が1違ってもその大きさは甚大なものとなる。<例えば、M7はM6の30倍>
・ “震度”(0~6強・7)は、“その場所”での揺れの強さを表す指標で、マグニチュードが小さくても、近くで地震が発生すれば震度は大きくなる可能性がある。
・地震には二つのタイプ、即ち「内陸地震」と「プレート境界での地震」があるが、“巨大地震”といわれるものは後者である。(記録のあるもので600年代から定期的に南海トラフで発生)
・「内陸地震」の原因と云われるのが「活断層」であり、国内には多数存在する。

 

3.建物の種類と造り方

・日本における建築の構造には、大きく分けて、「木造」、「鉄骨造」、「RC(鉄筋コンクリート)造」他があるが、最も多いのが木造(43%)、次いで鉄骨造(33%)、RC造(20%)の順となる。
・木造と鉄骨造が支配的なのがわが国の特徴で、ともに“棒”状の細長い部材を(柱と梁の接合など)骨組に仕立て上げている。
・事例:東寺五重塔(世界で一番高い木造建築)・東京タワー(日本で一番高かった鉄骨造)

 

4.阪神・淡路大震災、東日本大震災の教訓を経た防災・現在

<阪神・淡路大震災(1995.1.17)により啓発されたのは、以下の事業1~事業4>

*事業1:地震観測網の整備
・K-NETの配置(約1000点)/・KIK-netの配置(約700点)
・日本の地震観測地点は、地震多発地帯である米国西海岸(サンフランシスコ・ロサンジェルス地区)と比べても(配置密度と拡がりに、雲泥の差があって)多い。

*事業2:緊急地震速報
・揺れが到達する前に、大きな揺れが予想される地域に警告するシステム(スマホ・テレビ他)。

*事業3:免震と制震
・免震構造は、基礎と建物の間に緩衝材を入れて、建物を地震動と切り離すような仕掛けを施して、揺れが建物に及ぼす影響を低減するもの。
→1982年頃から導入されていたが、大震災の1995年から採用建物が一挙に増加している。
・制震構造は、主要構造にダンパーを採用することで揺れを低減するもの。

*事業4:E-ディフェンス
・巨大振動台施設(20m×15mの平面形状で3次元に揺することができる)
(独)防災科学技術研究所が保有し、兵庫耐震工学研究センターが運営する国を挙げての研究施 設で、人里離れた三木震災記念公園(広域防災拠点)に設置された屋内施設(高さ:約43m/面積:約5,200㎡)にある。
・実物大の試供建物に、過去の様々な地震波を再現(揺)することによって、実験を行っている。

*東日本大震災(2011.3.11)からの教訓
・人々の「想定」は多くの場合、対費用効果を考えた上での「想定値」であり、それを超える事態に遭遇する可能性は、その頻度は極めて少ないものの必ずある。
・東北地方の甚大な被害以外に、首都圏の超高層ビルもゆっくりとした大きな揺れが長く継続する事態が発生し、その直後、在館者の多くはビルから脱出し外から自分のビルを眺めていた。戻っても大丈夫なのか避難すべきか誰も教えてくれない状況があった。
→超高層ビルが集中する地区は、人口密度も尋常でないほどに稠密で、ビルの全員が地上に避難するとすれば、近隣空き地はその人々を収容する容量をもっていない。(カオス的に人々で溢れかえる事態を迎えることが想定される。)
・従って、(何とかして)人々がビルに滞留することが可能となる仕組みが必要とされている。

<次章でその状況を踏まえた(小堀研究所の)システム(q-NAVI)を紹介>

 

5.防災・減災への新しいニーズ(建物のモニタリングと健全性評価)

・㈱小堀鐸二研究所(構造 設計/研究 事務所)のミッションなど紹介があった。

*q-NAVIGATOR(q-NAVI、q-ナビ)とその役割
・建物の揺れと損傷(健全度)を素早く知るために、建物内に地震計を幾つか設置しておいて、いざ地震が来た時には、建物の揺れをリアルタイムで検知し、安全、要注意、危険をすぐに在館者・所有者に知らせることによって、生命や財産の保全と、BCPの確保を促す仕組み。

*地域に建つ建物の耐震性能
・ある地域に何棟か建物があるとすると、耐震性能にはバラつきがあって、これらを“一括り”に「安全」「危険」を判定することはできない。
・地震の揺れ(の判定)については、マクロ地図からミクロ地図(日本→首都圏→東京都→港区→地域)へと、より細かいデータが必要となる。

*q-NAVIとその役割
・要求(地面の揺れ強さ)と能力(建物の強さ)をきめ細かく測定することから、建物一つ一つの安全性を正確に判定する仕組み。
・建物内の適所に揺れセンサー(地震計)を設置して揺れの状況を逐一把握する。
・建物の揺れの状態、損傷の状態を「安全」「要注意」「安全」として判定する。
・地震直後にとるべき行動が促され、また、BCPが確保できる。
・地震後の補修・補強や回収についての適切な判断が可能となる。

 

6.質疑応答

・免震構造の普及について
→・公共施設や住宅などで需要があり普及してきたが思ったより数は増えていない。
・一般施設にそれほど普及しないのは、コストがかかるため、事業収支上、経済原則が優先されるためである。
・しかしながら、コストもそれほど高い訳ではなく、建設費の5~10%である。(メリットがあって経済的に成り立つ場合は、採用される可能性がある)

【植村和文(82期) 記】

 

Ⅷ.資料 北野高校_東京六稜会_中島正愛_(4.7MB)

 

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