【第172回】4月「日本初の公立楽器博物館の20年~生きている博物館への挑戦~」

Ⅰ.日時 2017年4月19日(水)11時30分~14時
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店6階
Ⅲ.講師 嶋和彦さん@86期 (浜松市楽器博物館館長)

1955年大阪府豊中市生まれ。北野高校86期生。京都大学教育学部卒業。
1970年よりリコーダーと民族音楽を大阪音楽大学教授西岡信雄氏に師事。公立中学校の英語科教員を務める傍ら、大阪リコーダーコンソートメンバーとして全日本リコーダーコンクール最優秀賞・朝日新聞社賞、大阪文化祭賞、音楽クリティッククラブ奨励賞等を受賞。ロンドン、アントワープ、ソウルなど海外でも公演。リコーダーオーケストラ豊中市少年合奏団指揮者。
90~93年インドネシア・ジャカルタ日本人学校勤教諭。ロンボク島、カリマンタン島の音楽文化調査に参加。
94年より浜松市楽器博物館設立準備にかかわり95年開館と同時に学芸員、2004年より同館長を務める。
2012年東南アジア民族音楽会議(台北)、2013年The Best in Heritage 国際会議(クロアチア)、2014年国際博物館会議楽器博物館専門委員会(ストックホルム他)、2016年国際博物館フォーラム(韓国)他に参加発表。国立音楽大学、静岡大学等非常勤講師。
98年よりNHKラジオ「あんな楽器こんな音色」コーナーを担当。
著書に「音楽中辞典」(音楽之友社・共著)、「図解雑学よくわかる楽器のしくみ」(ナツメ社・共著)ほか。
 
浜松市楽器博物館  http://www.gakkihaku.jp/
Ⅳ.演題 「日本初の公立楽器博物館の20年~生きている博物館への挑戦~」
Ⅴ.事前宣伝 「日本初の公立楽器博物館として1995年に誕生した浜松市楽器博物館は、日本の既存の音楽大学附属楽器博物館とも、欧米の名だたる楽器博物館とも異なるコンセプトを持って、一般の人々に、楽器と音楽は人間にとって何なのか紹介すべく活動してきた。その活動は、文化庁芸術祭レコード部門大賞や小泉文夫音楽賞の受賞等によって、大きく評価されている。楽器という有形遺産と、そこから生み出される音楽という無形遺産の両者を展示するという特徴と、ユネスコや国際博物館会議が発表した今後の博物館のあるべき姿とをベースにしながら、浜松市楽器博物館のこれまでと今後の活動を概観したい。」
Ⅵ.講演概要 一時間ほどで、浜松市楽器博物館の紹介をしたいと思います。なお、曾って六稜トークリレー(第23回)でもお話させていただいたことがあります。私は昨年退職し、現在は嘱託として館長を務めております。私個人の話は措いて、先に博物館の話をさせて頂きます。

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浜松は東京と大阪の中間、自動車、オートバイ、鰻などが有名で、その他、ギョーザでは宇都宮市と競っており、最近では大河ドラマ「直虎」の舞台、「出世の町」とも言われています。また「音楽のまち」から「音楽の都」へというのが市の推進している政策です。

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楽器博物館は市の中心、浜松駅から徒歩十分くらいのところにあります。1995年に開館し、当初は日本の楽器やヨーロッパの楽器などを展示、その後、インドネシア、インド、韓国やアフリカなど世界の楽器も加えていきました。公立の楽器博物館と言うのは初めてで、武蔵野音楽大学や国立音楽大学などの音楽大学の博物館とは違うアプローチを目指しております。ちなみに楽器メーカーさんからの財政的援助を受けている訳では有りません。

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いろいろなフォルテピアノ(注:だいたい19世期中頃までのピアノを、現代のピアノと区別するための名称)、電子楽器ならエレクトーン第1号機など、貴重な楽器が揃っております。楽器メーカーさんからお借りしたり寄付して頂いたりもしております。
浜松は今ではピアノの町ですが、その昔は足踏み式のオルガンから始まりました。ちなみに「ヤマハ」と言うのは創業者の名前(山葉寅楠氏)に由来する社名で、和歌山の時計職人の方が浜松に住み着いてオルガン作りを始めたのが最初です。
考古学の方面では静岡県には登呂遺跡を始め多くの遺跡があります。そこからはたくさんの古代のお琴が出土しています。当館はこのような古代の楽器も埋蔵文化財センターなどからお借りして展示しています。博物館にも琴を弾いている埴輪(模型)も展示しています。楽器博物館で埴輪を置いているところはまず無いでしょう。
楽器ばかりではなく楽器をモチーフにした鉄筋彫刻、楽器を演奏している人形、さらに楽器をモチーフにした切手(これは地理学者、故江波戸昭氏の世界一のコレクションの遺贈)も展示しております。

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バグパイプの特別展をしましたが、バグパイプは下に置くと袋がぺしゃんこになってしまいますので、いろいろ考えて、操り人形のように吊るして展示しております。電子楽器「テルミン」は、世界最初の実用的電子楽器ですが、昨年特別展をした時、テルミン博士の娘さんとひ孫さんにもご来館頂き、演奏会をしていただきました。数年前、ヤマハさんが東京で「むかしむかしの素敵なピアノ」展を開きました。実は東京には古いピアノは沢山有るのですが一般の人が聞くことが出来る機会は意外と無いのです。この時、古いピアノを浜松から持って行きました。銀座のヤマハの地下ホールに除湿器をいっぱい置きましたが、やっぱり少し狂ってしまい、浜松に持って帰って元に戻すのに2~3か月かかりました。古いピアノは頑丈な今のピアノと違って繊細です。

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旭山動物園の小菅園長は「その動物が一番輝いている姿を見せる」(行動展示)と仰っています。違う分野の方の考え方は、大いに参考になります。楽器は鳴っている時が一番輝いています。
「音と遊ぼう」と言うコーナーでは、楽器を自由に触れることが出来るのでメチャ面白いと言われております。しょっちゅう壊れますが壊れてもかまわないと思っております。ローランドさんから寄付して頂いた電子ドラムは人気です。馬頭琴やボンゴなどにも直接触ることが出来ます。
博物館も美術館も英語ではともにミュージアムですが、「博物館行き」と言うと「墓場行き」と言う語感になります(「美術館行き」にはそんな語感は有りませんね)。「モノさえ置いておけば良い」と言うことでは「博物館行き」になってしまうので、いろいろな活動に力を入れております。

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1720年代のフォルテピアノのレプリカがあります。チェンバロと聴き比べてみるとチェンバロは華やか、フォルテピアノの音はくすんでいます。「チェンバロの音が小さいからピアノが出来た」と言うのは大間違いです。1720年頃にフィレンツェで出来た最初のピアノは音が小さく鈍かったのです。ピアノのチェンバロとの違いは、ピアノが、キーをおす強さで音量を変えることが出来ることです。ピアノは200年の間に大きく変わりました。今のピアノは圧倒的に音が強く、他の楽器は負けてしまいます。バイオリンも歌曲歌も敵いません。古いピアノはソロだけでなく他の楽器とアンサンブルをするととても素晴らしいのです。来年新しく始まるショパンコンクールではフォルテピアノでの演奏が行われるそうです。

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忘れられた楽器の展示にも力を入れております。
例えば、須磨寺に伝わる一弦琴、余談ですが須磨寺の一弦琴の教室で一弦琴を弾いておられる小池さんは実は元北野高校の家庭科の先生、北野にもご縁が有るのです。
オークラウロと言う楽器があります。フルートの様な尺八の様な音、尺八の吹き口とフルートの管を持つ、大倉喜七郎氏が考案された楽器で、東京で大流行したことが有ります。
この外、鍵盤の付いたギター、四角いピアノなど、きれいな音の楽器がいろいろ有ります。

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文化庁の「芸術祭大賞」、「小泉文夫音楽賞」などの受賞をきっかけに、国際会議への招待、博物館会議への参加など海外活動も増えました。
ワークショップでは韓国の楽器チャンゴ、バンジョー、ガムラン、篳篥(ひちりき)などいろいろな楽器の演奏もとりあげております。浜松は西洋楽器の町ですが、楽器博物館はヨーロッパ中心思考からの脱却を目指しております。西洋楽器との静かな戦い、まだまだ勝ててはおりません。

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私は大学卒業後中学校の教師をしており、40歳ごろに楽器博物館の仕事を始めたので、この世界では謂わば外様ですが、教師時代のつながり、大阪の仲間、浜松の方々などに助けられて、幸いにも数々の受賞の栄誉に与かり、一つの役割は果たせたのかなと思っております。
楽器博物館は人々が出会い幸せを感じる場所を目指しております。
皆さま是非浜松で途中下車して頂いて、楽器博物館にお寄り頂ければと思います。

Ⅷ.資料 なし

 

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