【250回】10月「万博で変わる未来社会――2025年 大阪・関西万博の今」

Ⅰ.日時 2023年10 月11日(水)11時35分~12時50分
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店 クラシックホール(Zoomによるインターネット中継)
Ⅲ.出席者数 44名(会場31名、Zoom 13名)
Ⅳ.講師 尾崎 裕さん@80期(大阪ガス株式会社 相談役)
1950年生まれ、兵庫県出身。
1972年に東京大学工学部を卒業し、大阪ガス株式会社に入社。
2008年4月に大阪ガス社長、2015年4月に会長に就任。2021年1月から相談役。
2015年12月に大阪商工会議所会頭に就任したほか、2025年日本国際博覧会協会副会長などを務めた。
2022年7月より一般社団法人 2025年日本国際博覧会大阪パビリオン(2023年10月に公益財団法人となる予定)顧問を務めている。
Ⅴ.演題 『万博で変わる未来社会――2025年 大阪・関西万博の今』
Ⅵ.事前宣伝 2025年大阪・関西万博の開幕まで1年半を切りました。大阪の人にとって思い出深い1970年大阪万博では、未来の夢の技術やシステムが展示され、その多くがのちに実用化され、新しい商品・サービス、ビジネスとして国内外に普及しました。今回の万博でも、あとから振り返って、「あの時、あんなことがあった」「あのことが今につながっている」と実感できる、そういうレガシーがどんな形で生まれてくるのか今から楽しみです。六稜の皆様のふるさと・大阪も万博を機に大きく変わっていきます。2025年万博の「今」と、万博で変わる未来社会についてご紹介します。
Ⅶ.講演概要

◆はじめに

高校時代の記憶にあるのは、友人との楽しい語らいや、透明度の低いプールで秋まで続いた水泳、淀川堤防での「断郊競走」のしんどかったこと、放課後、十三や梅田の街を徘徊したことなどで、授業の中身については何ひとつ覚えていません。試験勉強も、もっぱら「一夜漬け」でしたが、振り返れば、本当に自由な校風だったと思います。

このときの経験から、「一夜漬け」には思わぬ効果があることを学びました。社会人になってからでも、納期や締め切りに追われ、プレッシャーがかかった時ほど「いい仕事」ができるというのは、皆さんも経験のあることだと思います。人間がやることには「納期」や「締め切り」といったものが絶対に必要になります。

こういう話をしますのも、今日のテーマである万博が2025年の開幕まで550日となった今、聞こえてくるのが、「会場建設に遅れが目立つ」とか「準備は間に合うのか」といった報道ばかりですので、皆様も、さぞや心配され、ヤキモキされているに違いないと思ったからです。確かに、建設資材の高騰や人手不足で海外パビリオンの建設準備がなかなか進まないなど、いろいろと難しい問題はありますが、人間は追い込まれると、信じられないような力を発揮します。「一夜漬け」の効果です。国も自治体も企業も、文字通り、背水の陣で、総力を挙げて準備を進めていますので、2025年4月の「納期」は必ずや守られます。ご安心ください。知らんけど・・。

◆1970年大阪万博の衝撃 

・開催から半世紀経った今でも、日本で万博と言えば、必ずと言っていいほど引き合いに出される1970年大阪万博、それは驚くべき集客力と求心力を持った、まさにモンスターイベントでした。330haに及ぶ会場に、1日平均35万人、ピーク時には1日84万人、半年間の開催期間に延べ6400万人を超える来場者を集め、「民族大移動」と呼ばれる社会現象を起こしました。

・会場は人で溢れ返り、炎天下、人気のパビリオンの前に何時間も長蛇の列ができる様子は、大阪万博のテーマ「人類の進歩と調和」をもじって、「人類の辛抱と長蛇」と言われるほどでした。パビリオンに入場すると、テレビ電話やコンピューター、ロボット、レーザー光線、電子音楽、はては「人間洗濯機」まで、人々が初めて遭遇する、衝撃的なモノや体験が待っていました。そこで展示・実演された技術やシステムのほとんどが、日本で初めて開発されたり、導入されたりしたものばかりでした。そして、その多くが後に実用化され、新しい商品やサービス、ビジネスとして社会に広まりました。

・このように、万博で展示された新しい技術やシステムが、その後の人々のライフスタイルやビジネスモデル、価値観や文化に大きな変化をもたらした訳ですから、70年万博は、世の中の潮流を大きく変えた、まさにゲーム・チェンジャーでした。

 

◆変革期のさなかに開催される2025年大阪・関西万博                                       

・それから半世紀、世界は大きな変革の波に晒されています。情報分野を中心とした技術の進展により、世界各地の結びつきが強まり、結果として地球は相対的に年々小さくなっているような気がします。そのことで逆に、国や地域間の利害対立がより先鋭化し、分断・衝突が相次いでいるようにも見えます。また、小さくなった地球の環境は、経済活動など人間の営みの影響をより強く受けるようになり、世界が経済活動と地球環境のバランスをどこに求めるのかを懸命に模索しています。

・時期を同じくして、コロナによるパンデミックが起こり、働き方や暮らし方を大きく変える必要性が高まり、人々の間に、もうコロナ以前には戻れない、コロナ後は全く違う世界になる、という認識が急速に広がりました。

・このように世界の枠組みが大きく変化しつつあり、その変革期のさなかに開催されるのが2025年の万博です。それだけに、今回の万博には、世の中の大きな変化を見据え、新しい社会の在り方を探り、世界に向けて発信して行くことが期待されます。

◆大阪・関西万博で何をどう変えるか

・そうした時代認識を踏まえ、2025年大阪・関西万博を通じて、私たちの暮らしやビジネスの何がどう変わるのか、あるいは、何をどう変えて行くのか、次の3つの視点から考えてみたいと思います。

サステナビリティを意識し、行動を変える

・1つ目は、「サステナビリティを意識し、人々の行動を変革する」ということです。

人類が消費する資源が大幅に増加したことで、消費による環境への影響や貧富の格差など、解決が難しい社会課題を抱えることになり、世界全体がSDGsに向かって行動を変革せざるを得なくなっています。2025年万博でも、SDGsの達成に向け、様々な取り組みを実験、実証し、未来の消費行動を変えて行くことを目指しています。

・例えば、環境面では、万博会場全体のCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現に取り組み、アンモニア発電や水素発電、メタネーションなど、最新技術を使った実証事業を行なうほか、廃棄物を再利用する循環型システムなどを活用します。また、「フードロス」をなくすという点からは、食材を残さず使い切る「サステナブルレストラン」等の出店を増やし、生ごみの排出量を減らして、世界の消費文化のあり方を変えるきっかけにする必要があります。さらには、万博会場の建物の建設についても、会期終了後、解体・撤去される構造物などを最大限再利用できるよう、リユース可能な木材を多用するなど、環境への配慮がなされています。

リアルとバーチャルの融合でビジネスや産業を変える

・2つ目は、デジタル化による社会変革、中でも、「リアルとバーチャルの融合で、暮らしやビジネスを変える」ということです。

デジタル化やAIの進展によって、大量・高速のデータ処理が可能となり、これまではできなかった予測やシミュレーションなどが格段に速く、正確に、そして簡単にできるようになりました。また、情報発信の担い手も、マスメディアからSNSなどの個人へと、主役が交代しつつあるように思います。

・2025年万博は、バーチャル技術が大きな役割を果たす初めての万博になります。1970年万博に比べて会場面積は半分ですが、サイバー空間にバーチャル空間を取り込めば、会場の面積を無限に拡大することも可能です。また、リアルとバーチャルの融合をはじめ、デジタル化、IT化、さらにはAIの進化が生み出す様々な事象や影響をいろいろと試してみることができるのも、今回の万博の面白いところです。コロナ下で蓄積したデータも活用しながら、万博を新しい形の社会実験を行なう「場」にする必要があります。

その上で、バーチャルに飽き足らず、リアルの会場に「行って、見て、触って、体験する」ことの価値はどこにあるのか、それを検証することも今回の万博の重要な役目となります。

大阪・関西をワールドクラスの都市・地域に変える

・3つ目は、「万博を通じて大阪・関西をワールドクラスの都市や地域に変える」ということです。

とにかく、万博開催を機に大阪・関西の魅力を世界に知ってもらうことが大切です。例えば観光客に、まずは万博会場のバーチャル空間で大阪を体験してもらい、その後、大阪の街に繰り出してリアルに楽しんでもらいます。そこで、観光客が大阪の本物の「おいしさ」や「面白さ」に出会うことができれば、大阪の街の魅力は一段と高まることになります。そのような体験を通じて大阪の魅力を知った人は、やがて、大阪を何度も訪れるリピーターや、大阪に実際に住んで暮らす定住者、あるいは、SNSを使って大阪の「推し」を世界中に広めるインフルエンサーになってくれるのではないでしょうか。

・観光のほかにも、ビジネスや学術・研究、文化・芸術、「食」や「笑い」「スポーツ」を含めたエンターテインメントなど、大阪・関西には世界に通用する高いポテンシャルがあります。これらあらゆる分野において、大阪・関西がワールドクラスの魅力あふれる都市・地域へと進化、発展するための様々な仕掛けを、万博開幕に向けていろいろと考え、実践して行くことが求められています。

◆大阪・関西万博を大阪・関西発展の起爆剤に

・これら3つの視点、即ち、「サステナビリティ」「デジタル化」「大阪・関西のまちの魅力向上」という点を意識して、万博を通じて、時代の変革を推し進め、新しい社会の在り方を探索、発信して行きたいと思います。

大阪万博が開かれた1970年、関西のGRP(域内総生産)は、日本のGDPの20%を占めていましたが、その後は成長が鈍化し、現在は15%強の水準で、40%弱を占める首都圏との差が開いています。それだけに、今回の2025年万博に期待するところは大きく、万博をスプリングボードにして、関西経済の力強い復活と新たな成長、発展につなげて行きたい、そのような思いを一層強くしています。

 

◆変貌する大阪のまち

皆様も東京暮らしが長くなりますと、生まれ育った大阪のまちが最近、どんなふうに変わっているか、あまりご存じないのではないでしょうか。

・うめきた

うめきたは、かつて国鉄・梅田貨物駅があったJR大阪駅北側で大規模な再開発が進んでいます。このエリアの一角、北野芝田町に府立北野中学がありましたが、貨物ヤードの拡張と機関車の煙害のため、1931年(昭和6年)、北野中学は淀川の対岸にある十三の地に移転しました。2002年から1期・2期に分けた再開発プロジェクトが始まり、「うめきた1期」では2013年、「グランフロント大阪」として街開きしました。2027年の全面開業に向けて開発が進む「うめきた2期」の特徴は、一等地の中心部に設けられる世界最大級の広さを持つ都市公園です。エリアの名称も「グラングリーン大阪」に決まりました。また、今年3月にはJR大阪駅に新たな地下乗り場「うめきたエリア」が開業し、関西国際空港からン大阪」の街開きが一部先行して行われます。

・ミナミ

ミナミは、「食」と「エンターテインメント」の街として復権を目指します。近年はターミナル周辺の開発が進み、2003年以降、「なんばパークス」、「あべのハルカス」、「なんばスカイオ」と、オフィスを含めた複合商業施設が相次いでオープンしています。日本初進出のタイの高級ホテル「センタラグランドホテル大阪」も開業しました。難波駅前には、2025年には6000m2の一大歩行者天国が誕生します。かつて日雇い労働者の街であった「新世界」も、星野リゾートが観光ホテル「OMO7(オモセブン)⼤阪新今宮」を開業するなど、大阪の魅力発信に一役買っています。

・十三

我らが「十三」では、阪急電鉄が、2031年に十三と新大阪駅を結ぶ「新大阪連絡線」と、十三と大阪駅を結ぶ「なにわ筋連絡線」の2路線を開業します。2031年には、大阪市の中心部を北に貫き、JR西日本と南海電鉄が列車を走らせる「なにわ筋線」が開業し、十三と関空の間に直通列車を運行することができます。これを見越して、早くも、タワーマンションや学校、商業施設等からなる巨大複合施設の建設計画が進んでいます。十三の街はファミリータウンとしての色合いが濃くなっていくものと思われます。

 

◆おわりに

2025年の万博開幕に向けて、今後も、あらゆる準備を着実に進めて行くとともに、国内外の機運醸成にも努めてまいりたいと思います。2025年万博が、企業や社会が未来に向けて力強くチャレンジする「希望の光」となり、大阪・関西の今後の飛躍的な発展の起爆剤になることを期待しています。

万博はオリンピックのような競技会ではなく、国際見本市でもなく、その本質はあくまでも「お祭り」です。楽しくなければ万博ではありません。東京六稜倶楽部の皆様も、ぜひとも楽しみにして頂き、奮ってご参加頂きたいと思います。

 

質問者 石垣具子さん 69期

Q: キャラクターのミャクミャクについて教えて下さい。
A: ミャクミャクは「いのち」のもととなる細胞(赤)と水(青)をデフォルメしたデザインです。賛否両論ありましたが、「キモかわいい」と受け入れられてきています。

質問者 家正則 80期

Q: 万博の話からずれますが、サステナブルな未来を見据えたエネルギー供給戦略では、天然ガス、メタンハイドレート、原発、太陽光・風力発電などの将来をどうお考えかお聞かせいただけますか?

A: 2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、カーボン(化石燃料)を使わない原子力・太陽光・風力、水素などをエネルギー源とする方法や、発生したCO2を地下などに貯めて大気中に放出しないようにする方法、CO2を回収して再利用する方法などがあります。先進国では前者の開発が進められていますが十分でなく、後者は現存する施設設備を使えるというメリットがあり、後進国での実行可能性も考えると、カーボンニュートラルへの移行期には、確実にCO2削減が見込まれる他の化石燃料からの天然ガスシフトや天然ガスの高度利用も、現時点では現実的なアプローチと考えています。

広本浩さん 88期

Q: 宇宙戦艦ヤマトのアニメでは人類滅亡まで200日との場面となっており大変です。万博の成功の指標としては何を考えているでしょうか?

A: 商業的には入場者数が目標を越え、イベントとして黒字になり、税金の追加投入が不要となることが成功の一つの指標となります。70年万博は黒字でしたが、もっと長期的に考えれば、万博で生まれたものが10年後の社会に活かされていることが成功の証になるのではと思います。70年万博と違って、新技術での物つくりというよりは、バーチャル技術の活用、待ち時間の低減、温暖化対応など、ソフト面を支える技術や仕組みの開発が期待されます。なお、2025年万博には、ヤマトでなくガンダムが登場する予定です。

記録:講演原稿より:家正則(80期)、講演者修正済み

Ⅷ.資料 20231011_東京六稜倶楽部講演(PowerPoint)1010