【第197回】5月「大学の過去・現在・未来」

Ⅰ.日時 2019年5月15日(水)11時30分~14時
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店6階
Ⅲ.出席者数 61名
Ⅳ.講師 木谷雅人さん@84期 (国立大学協会常務理事・事務局長)

1972年に北野高校を卒業、1976年に京都大学法学部を卒業後、文部省(現文部科学省)に入省した。

当初は教科書行政など初等中等教育関係を中心に経験し、1984年から2年間は岐阜県教育委員会に出向した。

1988年から3年間は在ジュネーブ日本政府代表部の一等書記官として出向し、帰国後の1991年から4年間は文化庁著作権課国際著作権室長を務め、この間、GATT(現在のWTO)の知的財産権交渉やWIPO(世界知的所有権機関)の諸会合において、コンピュータソフトウェア、レコード、映画などの著作権問題を担当した。

1995年からは、留学生課長、医学教育課長、高等教育企画課長、文化庁文化財部長、高等教育局審議官と、主に高等教育行政に携わり、大学改革や国立大学法人化の準備などを担当した。

2003年からは、研究開発局審議官として、宇宙開発、原子力研究などを担当したが、特に国際核融合実験炉(ITER)誘致の国際交渉に携わった。

2005年から3年間は京都大学理事・副学長(総務担当)を、2008年から5年間は国立高等専門学校機構理事を務め、2013年7月に国立大学協会常務理事・事務局長に就任して現在に至っている。

昨今、高等教育とりわけ国立大学に対しては、将来の我が国の在り方と関わって大きな期待とその裏返しとしての様々な不満が寄せられているが、国立大学協会においては現在の改革の取組の広報や将来の在り方に関する各種の提言を行い、各方面の理解と支援を得るべく努力している。

Ⅴ.演題 「大学の過去・現在・未来」
Ⅵ.事前宣伝 十分に考えることなく、大仰で固いタイトルを付けてしまいましたが、実際の話の内容は、私のこれまでの経験を中心に肩ひじ張らないものにしたいと思っています。前半は、文部省(文部科学省)を中心とした約40年にわたる様々な仕事の経験の中で、特に印象に残ったことや考えてきたことをお話しします。後半は、現在の大学を取り巻く状況と今後への展望(希望?)についてお話しします。平成に入って以来、大学改革の流れは絶え間なく続いており、実際に大学は大きく変化していますが、社会や産業界からは相変わらずさらなる改革の必要性が声高に叫ばれています。ただ、政府を含めて、それらの議論は、必ずしも信頼性の高い客観的なエビデンスに基づかない印象論で進められているきらいがあります。国立大学協会において、日頃から多くの大学関係者と議論している中で、これからの社会におけるの役割や改革の方向性、政府の大学政策形成の在り方などについて、考えていることを話したいと思います。その他、皆様のご関心に応えられるよう、文部科学行政について個人的に感じていることを率直にお話ししたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
Ⅶ.講演概要 年号が令和に変わって最初の講演は、38ページにわたる詳細な資料が配布されて行われた。紹介者は2年3組の同級生であり、京都大学法学部の同窓生でもある大森さん。2年3組時代の反骨精神のあふれる春の遠足のエピソードや、高校・大学時代の木谷さんの様子などが紹介された。木谷さんの官僚時代のかつての上司である阪田東一さん(79期)も出席されていた。1.私の履歴
詳細は配布資料 私の履歴⑴~⑶を参照。

1)文部省

大学卒業後、特に深く考えることもなく「教育は国家百年の計」と思って文部省に入省した。実際、文部省の仕事は私に向いていたと思う。文部省の全体的な雰囲気は真面目で堅実で家族的と言えるが、ぬるま湯的・保守的になる恐れもあり、文部科学省への再編は良かったと思う。なお、文部省には各大学で採用された後に本省に転任した志の高いノンキャリアの職員が多数存在し、文科省で数年仕事をした後、大学に戻って幹部として活躍するというコースがあることも特徴的である。国立大学は法人化してそれぞれの大学ごとに幹部を養成しているが、法人化してからまだ15年しかたっておらず、現状では幹部にふさわしい人材養成が追いついていない状況である。

2)国立大学協会

国立大学協会は1950年に設立された。会員は全国立大学(86大学)
様々な活動のうちの一つはロビー団体としての活動。(ロビー活動とは団体の利益の為、官僚・政治家・公務員に陳述(圧力)献金など多様な活動を行う事 コトバンクより抜粋)

 

2.大学の過去と現在について

1975年(文部省入省当時)頃までは私大を含め大学の数が急激に増えた時代で、数字の上では進学率も高まったが高等教育機関としての質の確保・向上のために、文部省が主体となって計画的な整備や制度改革が行われた。その後、事前規制から事後評価と競争へという流れが強まり、2004年国立大学に民間的発想の経営手法を取り入れることなどを目指して全国立大学が法人化された。法人化は大学の主体性を高める良い制度であるが、実際には法人化後、運営の基盤となる運営費交付金などが年々削減される中で各大学は大変苦労している。運営費の主な使い道は人件費である。人件費が減ると常勤の教員を減らさざるを得ず、実際は非常勤や外部資金により雇用される教員を増やすことで対応している。つまり大学で安定して研究できるポストは減っているし、若手教員の新規採用が減っている。卒業後の活躍の場(大学・企業)が少ないため、博士課程の進学者は2003年より減少している。これらを反映して、我が国の研究力を示すTOP10%論文生産数が減少している(TOP10%論文とはインパクトの高い世界的にもよく引用される論文の事)。

 

3.最近の文部科学行政ついての個人的な感想

政治主導・官邸主導の傾向が少し行き過ぎており、文部科学省や中央教育審議会での専門的なじっくりした議論が十分にできていないように感じている。また、様々な政策の立案や施策の実行において、長期的視野・総合性・安定性が十分に配慮されておらず、エビデンス(証拠・根拠・証言)重視を謳いながら、客観的データの収集と冷静な分析が不十分である。一方、アカデミックなコミュニティからも、客観的なデータに基づく分析・批判と建設的な対案の提示ができていないことも課題と考えている。

 

4.大学の未来のために国立大学協会が活動していること

国立大学法人化以降、国・文部科学省は様々な目標を掲げたり戦略や改革プラン、ミッションの再定義など新しい政策をどんどん出しているが、そういったものに振り回されるのではなく、国立大学協会が独自に高等教育における国立大学の将来像を提言し、実現に向けた方策を示していくように努力している。財務省に対しても同様である。海外の大学団体との交流と連携を積極的に進めているが、教育・学術交流の拡大のみならず、同様の課題を共有し連帯していくという意義もある。

 

5.質疑応答

問1)「京大的アホがなぜ必要か? 酒井敬 著」第4章間違いだらけの大学改革参照。

大学改革について基礎研究者に建設的・具体的な提案を求めるのには無理があるのではないか?

答1)各分野の基礎研究者というよりは、高等教育・科学技術政策に関する大学教員や研究者が、もっと積極的に発言や提案を行う必要があると思う。

 

問2)世界大学ランキングに入っている大学数では日本は世界第2位という話があったが、この数年、日本のピークの大学のランキングは雪崩を打つように下落している。平成13年から努力しているにもかかわらずここまでランクが落ちるのはなぜか?量があっても質が下がるのはあまり意味がないと思うがどう考えるか?

答2)もちろん質を上げることが重要。ただし、日本はドイツなどに比べてもトップ大学への偏りが大きく、ある程度のレベルを有する大学の数を確保することも必要。

大学のランクを上げるのに一番の秘訣は優秀な教員を連れてくることと言われ、シンガポールなどは多額の給与を出して教員を招致しているが、我が国の財政状況では困難。海外の提携大学とのクロスアポイントメント、国際共同研究、国際共著論文などの様々な取組を行っていく必要がある。

 

問3)国立大学はICU(国際基督教大学)の成功例に倣ったらどうか?

ICUは文科系が多い、授業は英語で行われている、積極的に資金集めを行っている、理事長の幅広い人脈を用いて海外の優れた教授陣を集めている、教授陣を目当てに海外からの留学生が多い。

答3) ICUは比較的こじんまりした大学だが、国立大学の規模・特性は多様であり、それに応じて検討する必要がある。例えば、学部として千葉大学の国際教養学部が、最近設置されている。

留学生のリクルートについては、国立大学が組織的に連携してネットワークを作って進めていくことも検討する必要がある。

 

  【VII.講演概要 記録:野田美佳(94期)】

 大学の過去・現在・未来1.pdf(3MB) 大学の過去・現在・未来2.pdf(3MB)

 

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