第60回  「原子力の課題」 岡崎俊雄さん@74期

reporter:峯 和男(65期)

    日時: 2007年12月19日(水)11時30分~14時
    場所: 銀座ライオン7丁目店6階
    出席者: 73名(内65会会員:江原、大隅、正林、山根、峯)
    講師: 日本原子力研究開発機構理事長 岡崎 俊雄氏(74期)
    演題: 「原子力の課題」
    講師紹介:
    (講師より聴取)
    1962年 3月   大阪府立北野高校卒業
    1966年 3月  大阪大学工学部原子力工学科卒業
    1966年 4月  科学技術庁入庁
    1977年ー1980年 在仏日本国大使館
    1998年 6月  科学技術事務次官
    2000年 7月  日本原子力研究所副理事長
    2005年10月  日本原子力研究開発機構 副理事長
    2007年 1月       同            理事長
    講演内容:
    (要点のみ)
    1. 大阪府知事選に橋下氏が出馬することになった。六稜OBの彼の出馬が府民に元気を与えられればと思う。本日の自分の話はご出席の皆さんに元気を与えられる ような話にはならないかもしれないが、折角の機会なので30年間科学技術行政と研究に携わった者としてお話させて頂きたい。

    2. 話のポイントは次の2点に絞られる。第1は「原子力は何故必要なのか?」第2は「原子力は本当に安全なのか?」である。

    3. 第1については、地球の温暖化防止でありエネルギーの安定供給のためである。第2については、原子力発電の安全性は?放射線とは?出てくる放射性廃棄物はどうするのか?という問題である。

    【地球の温暖化について】
    西暦1000年から1900年頃までは地球の平均気温は殆ど変わっていないが、19世紀末からの100年間で摂氏0.6~0.7度上昇している。
    今後の100年間ではこれが4度位上昇するとの予測がなされている。炭酸ガスは明らかに増加しており、温暖化は加速、いずれ北極海の氷がなくなり砂漠化も 進むと予測されている。平均気温上昇が2度を超えるのが一つの尺度とされており2030年にはその事態が来る。今直ぐ行動を起こすべきという認識は科学者 の間で共有されている。10~20年の間に真剣に考えねばならない。

    【各種電源別CO2排出量】
    単位は省略し数字のみ挙げれば、石炭火力975、石油火力742、LNG火力608に対し原子力は22であり圧倒的に少ない。各国の現行政策を継続した場 合、2030年には排出量は2005年対比57%増加するが(この場合原子力の比率は5%)、温室効果ガス安定化レベルを満足できる対策の組み合わせを考 えると原子力の比率は12%になる。

    【全ての資源は有限である】
    電気のもととなるエネルギー資源を、世界中で使い続けていくと、あとどれくらい使っていけるのか? 石油約40年、天然ガス約65年、石炭約155年、ウラン約85年と試算されている。即ち石油はその生産ピークを明らかに迎えつつある。

    【主要国のエネルギー自給率(原子力を含む)】
    英国106%、米国72%、フランス(原子力の比率が高い)50%
    ドイツ39%、日本16%、イタリア15%
    日本は主要先進国の中でも自給率は最低である。

    4. 次に、第2の安全性の問題に移る。
    【通常運転時の生命損失(ドイツの分析)】
    石炭約0.07、石油約0.12、天然ガス約0.02、原子力約0.005
    原子力はリスクが高いという認識はなかなか払拭出来ないが、チェルノブイリの人達がかなり戻ってきているのが現実であり、過大な心配について再考すべき時期が来ている。これまでは原子力を避けてきていたが、最近は議論の中に取り入れられるようになってきた。

    【止める!冷やす!閉じ込める!】
    この3つが重要な要素。先ず「止める」が最も重要である。40~50%の熱が蓄積されているので、次に「冷やす」機能、更にこれを「閉じ込める」機能が必 要である。柏崎刈羽発電所は地震の揺れを感知し、運転中の4基が自動停止。外観目視点検の結果、重要設備には異常は見つかっておらず、「止める」「冷や す」「閉じ込める」機能は保たれた。

    【原子力発電所の地震対策】
    徹底した調査や解析によって周辺地域で起こり得る最大の地震を想定し、大地震が起きても放射性物質を閉じ込める機能が充分保たれる耐震設計がとられている。
    (1) 活断層を避けて建設する
    (2)強固な岩盤上に建設する
    (3)限界地震にも十分耐える設計
    (4)大きな揺れを感じると自動停止(大きな力が加わっても壊れないように丈夫な設備になっている)
    なお、中越沖地震についての検討結果報告は来年3月頃までに出ると思う。

    【微量な放射線は身の回りにもある】
    放射線の強さを表すため、放射線が身体に与える影響を基に定めた単位として「ミリシーベルト」という単位が使われている。
    一人当たりの年間の自然放射線は2.4(宇宙、大地、食物などから)であるが、胸部X線コンピュータ断層撮影検査(CTスキャン)は一回当り6.9にな る。原子力発電所(軽水炉)周辺の線量目標値(年間)は0.05であるが、実績は0.001ミリシーベルト未満でこの目標値を大幅に下回っている。
    周辺住民への影響は軽微と言える。

    【放射性廃棄物の処理・処分】
    (1) 放射性の低い廃棄物
    イ) 原子力発電所から発生(気体、液体、固体)
    ロ) 減容後ドラム缶中で安定に固定
    ハ) 貯蔵庫に保管
    ニ) 青森県六ヶ所村において埋設処分(実施中)

    (2) 放射性の高い廃棄物
    イ) 再処理工場で発生(使用済み燃料)
    ロ) ガラスに溶け込ませ、ステンレス製容器で安定に固化
    ハ) 冷却のため、30~50年間程度安全に貯蔵
    ニ) 地下深い地層に処分(場所を公募中)
    ※現在は、ハ)の段階。

    これまでは、施設とマニュアルがしっかりしていれば安全と思っていたが実際に事故は起きた。運転員の管理と人材育成が極めて重要と認識している。
    原子力というと必ずリスクの問題が出るが、喫煙やアルコールの方がリスクが大きいという見方も出来る。いずれにしてもリスクの安全対策と説明責任は重要であり今後もそのことを充分認識の上対策を講じて参りたい。
    最近、原子力工学科を廃止する大学が出てきていることは今後のエネルギー問題に対処する上で憂慮すべきでありこの点についても検討していきたいと考えている。