【第194回】2月「AIは人間社会を抜本的に変える」

Ⅰ.日時 2019年2月20日(水)11時30分~14時
Ⅱ.場所 銀座ライオン7丁目店6階
Ⅲ.出席者数 88名
Ⅳ.講師 松本徹三さん@70期 (ソフトバンクモバイル株式会社 元取締役副社長)

1939年生まれ。
京都大学法学部を卒業後、伊藤忠商事 大阪本社に入社。
アメリカ会社エレクトロニクス部長、東京本社の通信事業部長、マルチメディア事業部長、宇宙情報部門長代行などを歴任後、1996年に伊藤忠を退社して独立。
コンサルタント業のジャパン・リンクを設立後、米クアルコム社の要請を受けてクアルコムジャパンを1998年に設立し、社長に就任。
2005年には、同社会長 兼 米国本社上級副社長に就任し、発展途上国向け新サービスの開拓などに取り組む。
2006年9月にクアルコムを退社し、同年10月にソフトバンクモバイルの取締役副社長に就任、主として技術戦略、国際戦略などを担当。
2011年6月には副社長を退任して取締役特別顧問になり、1年後に退社する。
2013年11月に、休眠していたジャパン・リンクを復活させて、現在はソフトバンクを含む国内外の通信関連企業数社とのアドバイザリー契約がある。
2013年から2年間、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科の特別招聘教授も務めた。
最近の著書に『AIが神になる日』(SBクリエイティブ、2017年7月)がある。
Ⅴ.演題 AIは人間社会を抜本的に変える
Ⅵ.事前宣伝 講演者の松本徹三氏(70期)は、元ソフトバンク・モバイルの取締役副社長で、今なお同社のアドバイザーを勤める他、一昨年に日本で出版した「AIが神になる日(インギュラリティーが人類を救う)」の英語版と中国語版を昨年末には世界の14ヶ国で発売開始するなど、世界を舞台に多忙の日々を送っておられます。今回は「ようやく開発が本格化しはじめたAI(人口知能)が、これから人間社会をどの様に抜本的に変えていくか」をテーマに講演され、会場の皆様からの活発な質疑を期待しておられます。講演に先立ち、同氏から講演要旨として下記のメッセージを受け取っていますので、取り敢えずご参考に供します。

1)AIブームは過去にもあったが今回のものは本物。この流れの先に必ず「シンギュラリティー」と呼ばれる大飛躍があり、人間社会はこれにより抜本的に変わる。具体的には、政治や経済は全てAIに委ねられる事になるかもしれない。この時点は遅ければ100年後ぐらいであろうが、早ければ30-40年後ぐらいになるかもしれないから、我々は今からそのことを意識していなければならない。

2)これに至るまでの間も、人間とAIの協業のあり方は絶え間なく変化する。文系、理系を問わず、頭が柔軟でAIを駆使できる人は今より忙しくなるだろうが、固定観念に囚われた人は働く場が縮小され、厳しい世の中になるだろう。しかし、AIによって生産性が更に飛躍的に高くなれば、とりあえず先進国の国民は「BI(Basic Income)」の恩恵を享受でき、一様にストレスのない生活が送れることになるだろう。

3)現在、米国のトランプ政権の政策にも見られるように、民主主義は次第にその欠点を露呈しつつあり、過度に爛熟しつつある金融資本主義も、やがては大転換を余儀なくされる可能性が高い。その一方で、人類を破滅させる核戦争や凶悪な人工ウィルス拡散の危機も、引き続き常に存在している。AIがこれらの全ての問題を解決する鍵を握ると思われるが、これからは厳しい「時間との闘い」となる。

Ⅶ.講演概要 1.経歴紹介大学卒業後、伊藤忠商事で34年間働いた。定年までの定番のコースである関連会社への天下りが嫌で、その当時としては大変珍しい事であったのだが57歳の時に早期退職し自分で事業を立ち上げた(ジャパン・リンク)。59歳から米クアルコム社(※1)で働いた。68歳の時に孫正義氏に出会い、ソフトバンクが携帯電話事業を立ち上げるのに必要な人材としてスカウトされ、孫氏の右腕として技術戦略・国際関係・企業買収に携わり、今のソフトバンクの根幹となる会社を作り上げた。後にジャパン・リンクを復活させ、現在に至る。(73歳から80歳で現役続行中)※1:米クアルコム社は携帯電話の基礎技術を開発した会社

 

2.イントロダクション

通信は一つの道具に過ぎないが、最近、能力向上が目覚ましいのがスマートフィンである。

スマートフォンはインターネットを通じて世界中の色々なものにつながって色々な事が出来る。大勢の人がスマートフォンを通じてコンピュータを使うことで、コンピュータの使い方が非常に高度化してゆく。これまでのコンピュータは人間と比べると出来る事・出来ない事が混在するいびつな存在であったが、最近では出来る事の範囲がどんどん広がって、人間の脳に近づいている。そうするとどうなるのか、その時我々はどうしなければいけないのかを述べる。

 

3.AIが神になる日

AI(人工知能)が起こす革命(シンギュラリティー;技術的特異点)はこれまでの人類史上、比較にならないほどのとてつもなく大きな変化を人類社会にもたらす。(30年後~100年後 諸説あり)

AIは将来、人間をはるかに超えて神のような存在になる。

ゾロアスター教(善悪二元論)に例えると、悪意のある自己本位の人や国がAIをコントロールするとひどい社会になるし(悪神)、正しい人たちがAIをコントロールすると良い社会になる(善神)。良識のある人達が悪者よりも早く良いAI(神)を創り上げる事こそが運命の分かれ道となる。

 

4.人間の能力のアンバランスが人類を滅ぼす。

科学技術はある時期から飛躍的に向上し、留まるところを知らない(軍事力と経済力の競争)

しかし折角の科学技術を平和と倫理の確立の為に使いこなすべきマネージメント能力は殆ど横ばい状態である。人間のいわゆる人間らしさ(欲望とエゴ)はマネージメントには向いていない。

このままでは遅かれ早かれ核兵器・生物化学兵器が使用されて、人間が人間を滅ぼすだろう。

人類が然るべきマネージメント能力を確立するため、欲望もエゴも持たないAIにマネージメントを委ねる事が人類の生き残る唯一の道である。

人類が生き残るため、科学技術の進歩を抑えてしまうという考え方もあるが、これは世界中の国々が足並みを揃えないとただの負け組となるだけ。科学技術の進歩は止められない。

 

5.政治とAI

多摩ニュータウンの市長選のエピソード(2018年4月)

AI市長(※2)の立候補があったが4000票で落選した。日本では泡沫候補扱いでニュースにもならなかったが、「日本はすごい国。AIが4000票も獲得した!」と、世界の一流メディアが報道した。

※2:AIを駆使して公明正大な市政を実現する事を公約に立候補した人。ロボット市長。

 

政治とは情報・状況を把握して分析‣推論し、最大多数の最大幸福を実現する事。

AIが政治を担うと哲人政治(※3)が実現できる。

不正のない、隠し事のない、法律違反のない、過去の政策と矛盾しない政治。

ブラックボックスにならないので有権者に対して政策を完全に説明できる透明な政治。

全有権者一人一人の民意を(デジタルに)くまなく吸い上げて政策に反映できる。

主流意見だけでなく非主流意見も取り入れた妥協案・調整案を新たに出せる。

※3)哲人政治とは理想の君主を統治者とする独裁政治体制の一種

 

6.経済とAI

経済活動の理想は「人は能力によって働き、必要に応じて与えられる」いわゆる社会主義。

人間の独裁制下の経済活動は最悪。不適切な配分、特権階級の発生、格差が広がる社会。

人間の人間らしさ(欲望とエゴ)が原因で、人間の権力は必ず腐敗してしまう。

AIによって究極の経済システム(社会主義)が実現出来る。

 

7.AIの基本理念

AIには人間の持つ欲望やエゴを模倣させず、純粋に理性的な存在とする。

(AIは人間らしさ(欲望・エゴ)を統計的にマネできるが、マネをすると人間と同じ問題を起こす)

AIはみんなが合意できる公正で倫理的な基本ルールに従って、最大多数の最大幸福を実現する存在とする。

 

8.AIによって仕事を奪われる恐怖

単純労働はもう既にロボット(中身はAI)に取って代わられている。

一方、高収入である知的労働者(弁護士・医者・○○アナリスト等)は失業の危機にさらされる。

人の出来ない危険な労働を人に代わって行う。例えば戦争の手法・価値観が変わってくる。

 

9.結論

悪者がAIを取る前に、或いはAIの開発が遅れて人間が人間を滅ぼす前に、早く頑張って良識のある人たちが結集して良いAIを創って人間からAIに大政奉還する事が人類を救う唯一の道である。

 

10.質疑応答

質問)日本はサイバー部門の技術が遅れている。将来的に大国(アメリカなど)が提供するAIを使わざるを得ないのか?日本独自のAIを大国よりも早く開発するには、大人の責任として若い世代に対して何をどのようにすればよいか?

回答)AIの開発には100人の勤勉な開発者よりもたった一人の天才のひらめきが必要とされる。

日本人の平均IQは世界平均よりも高いので、日本にも天才児がいるはずなのに埋もれている。

日本では非凡な子供は非凡な故に協調性に欠けるとみなされ異端視されていじめられ、発達障害や落ちこぼれ扱いされる。日本の横並び教育では天才は育たない。

例えばアメリカではgifted教育(神様から与えられた特殊な才能を伸ばす教育)が確立している。

日本が国際競争に勝つためには日本の教育の価値観を変えなければいけない。

日本の教育を変えられるのは学校や教育委員会ではなく、実は大企業のトップである。

企業は優秀な学生を採用して社内から海外留学させるのではなく(結果として貴重な人材が海外に転職・流出している)海外で実際に勉強してきた優秀な人材をきちんと採用して優遇する。そうすると親も学校も自然と変わってゆくだろう。

【Ⅶ章記録:野田美佳(94期)】

Ⅷ.資料 AIが神になる日 プレゼンテーションパッケージ 最新版PDF 2019.2.10(310KB)