第32回 「海外旅行に行きませんか~シニア海外旅行泣き笑い添乗記」  坂本知美さん@109期

reporter:峯 和男(65期)

    日時: 2005年8月17日(水)11時30分~14時
    場所: 銀座ライオン7丁目店6階
    出席者: 59名(内65会会員:江原、国政、山根、峯)
    講師: (株)ニッコウトラベル 営業企画部 坂本知美氏(109期)
    演題: 「海外旅行をしませんか!シニア海外旅行泣き笑い添乗記」
    講師紹介: 109期卒。1998年立教大学文学部フランス文学科入学。在学中1年間パリに留学、フランス語とコンテンポラリーダンスを学ぶ。2003年(株)ニッコウトラベル入社、海外旅行添乗専門課を経て現在は営業企画部所属。
    講演内容:
    (要点のみ)
    【自己紹介および会社の紹介】
    (1)本日は、大勢の大先輩の前でお話する機会を与えられ光栄です。6月の東京六稜総会に出席したところ同期生は私一人のみ。その際世話役の松本氏からこ の昼食会に出てみないかと云われ、軽い気持ちでお引き受けしたが、後で六稜のホームページを見て驚いた。これまでの講師は錚錚たる方々が多く、私のような 若輩がお話してよいものか、と。今日は皆さんに楽しく聞いていただければ、と思う。

    (2)高校時代は陸上部のマネージャー。また4歳からバレエを続けていて、舞台人になりたく東京に行きたかった。上京し、演劇やコンテンポラリーダンスを始め、今度はさらにダンス文化の盛んなフランスに留学。帰国後は演出・振付・制作を担当し自主公演を行なった。

    (3)こうした舞台活動を通して、人を楽しませる仕事をやりたいと思った。いろいろな業界の会社訪問をした結果、現在の旅行会社に就職した。

    (4)当社はシニア向けの海外ツアーを扱っており参加者の平均年齢は70歳。セールスポイントは「定員25名のゆったりした旅行。2連泊。誠実な添乗員が 同行、等‥」スーツケースの空港持込、持ち帰りは全て配達。高齢者の方が多いので日本食が恋しくなる頃を見計らって朝食にお粥のサービスも行なう。また添 乗員は毎日日記を書き最終日に参加者に手渡す。これは参加者が後日写真の整理をする時などに役立つ。ゆったり座って頂くために50人乗りを30席に改造し た独自のバスをヨーロッパに持つ。また今年はオランダで自社の河船も造り、日本人は風呂好きなので全室に浴槽も備え付けた。観光地の説明が後ろの人にもよ く聞こえるようにガイドシステムという器具を使用、参加者は全員イヤホーンをつけて離れていても説明を聞くことが出来る。


    【添乗員をして良かったこと】
    (1)世界中に行けること。これまでに30カ国以上周った。グリーンランド、サハラ砂漠、タヒチ、イースター島等なかなか行けないところにも。

    (2)歴史・建築・美術・宗教・などからワイン・ビールについてまで、多くのことを勉強する機会が持てたこと。

    (3)やはり一番は人との出会い。お客様を始め、世界各地のガイド、ドライバー、ホテルやレストランのスタッフ達。ツアーは多くの人々との共同作業。習 慣・文化の違いからたまには行き違いや喧嘩もあり、言葉の通じないドライバーもいるが、コミュニケーション力を磨くことができた。


    【添乗員をして困ったこと】
    (1)太ったこと。添乗員になって7キロも太った。理由は「早食い」。添乗員は最後に食べ始め、最初に食べ終わらねばならない。外国では毎日デザートがついてくるので、さらに太る。

    (2)衣替えが出来ない。ツアーはだいたい2週間、帰国して5日後に次のツアーに出発することも。1ヶ月に日本にいるのが1週間という生活。しかも暑いところから次は寒いところということもあり夏物、冬物は常に部屋に出したままになる。

    (3)人数を数える癖がついた。ツアー中は迷子が出ないように常に数えているので、普段の生活でもまとまった集団を見るとつい。今日ご出席の皆さんの前に立った時も何人位かと数えてしまう。


    【ハプニング】 ハプニングのないツアーは先ず無いと云っても良い。ハプニングがあるから旅は思い出に残る。
    (1)イタリア・ツアー
    成田からアムステルダム経由でフィレンツェに行く予定だった。ロシア上空で急なアナウンス。「当機はモスクワに着陸します。」機内中がどよめいた。アイ スランドで火山が大爆発したのが原因。困った、急きょロシア観光をしまければ・・・と冷や汗が出た。ところがロシアを通り過ぎブダペスト、ウィーンと着陸 地変更のアナウンスが次々とあり、その度に必死でプランを考えたが結局は予定通りアムステルダムに無事到着した。
    イタリア観光を終え帰国日、空港へ向かう時大渋滞に巻きこまれた。どうやら交通事故のよう。常に相当の時間的余裕をもって空港に向かうがこの時は1時 間、2時間経っても空港に着かない。このままだと乗り遅れる・・・。最近は飛行機は待ってくれないことが多い。ハプニングが重なるツアーは重なるものであ る。バスから空港に電話。「あと何分?!」とあせる係員に「あと1分!」と何回も繰り返し、飛行機出発時刻に到着すると、待っててくれた!全員が機内に 入ったとき他の乗客から暖かい拍手を貰って感激した。

    (2)フランス・ツアー
    フランスのニースに到着した際出迎えのバスが来ていなかった。ドライバーに連絡もつかず、疲れているお客様を待たせるわけにもいかない。周囲を見回すと 他のグループを待つバスが何台か停車している。出迎えのツアー到着までまだ時間の余裕があるバスのドライバーをつかまえ、一生懸命交渉し、無事ホテルまで 送って貰うことが出来た。

    (3)ベトナム・ツアー
    予定通りに事が運ばない国もある。土産物店でトイレ休憩を予定していたが当日臨時休業になっておりトイレが使用出来ない。真っ暗な中民家の明かりが見え たのでそこへ走りトイレを借りる交渉をしたが英語もフランス語も通じない。家中の人が出て来た中で、用を足すゼスチャーをしても通じず困ってしまったが、 結局子供が当てて親に伝え、借りられることになった。バスのところへ戻ったところ現地人ガイドが別途公衆トイレを見つけてそこへ行ったが電気がなく真っ暗 闇で穴に落ちる危険もある。バスを近付けヘッドライトの明かりで何とか用を足すことが出来た。

    (4)忘れ物など
    朝の出発前に「忘れ物はありませんか?」と尋ねる。たいていはここで思い出してくれるが、あるとき隣町へバスで到着、昼食になったところで「あ!入れ歯忘れた!」。運転手にもう一度戻って取ってきてもらった。

    (5)出発日の間違い
    当社のツアーは、ゆったりして頂くために午前中出発の場合は前日に空港近くのホテルに宿泊する。夜になってもチェックインしていない方がいると判り自宅に電話したところ、翌日と勘違いしていた由。前泊のお蔭で翌日の出発に間に合った。

    (6)迷子
    モロッコのフェズは世界一の迷宮都市といわれ、迷子になることで有名。現地ガイドが先頭、私が最後を歩き、お客様にはグループから離れないようにくどい くらい注意してそこを歩いた。狭い道なので車の代わりにロバが荷物を運ぶ。人間よりロバが優先なので人間は片側の壁にへばりついてロバを通す。この直後に 迷子になってしまった。私が・・・。焦りに焦って「日本人の団体が通らなかったか」を聞きながら何とか昼食レストランに辿り着いた。お客様はすでに食事を 始めており私がはぐれたことには気がつかなかった様子。

    (7)病気・怪我
    お客様の命を預かっている立場上、最重要事項としていつも細心の注意を払っている。高齢の方が多いので旅先でもいろいろあるが、元気に旅を楽しんでもらえるよう心がけている。


    【添乗員は旅の演出家】 舞台活動をやってきた私にとって、添乗員は現場での演出家、盛り上げ役だと思う。思い出に残る旅になるよういろいろ工夫している。
    (1)ダンス
    「芸は身を助く」でダンスの経験が思いがけず役立つ。最近人気の、大型客船クルーズではお客様と社交ダンスをする機会が多い。また、ダンスは言葉を越え て現地の人と交流できる。ニューオーリーンズでジャズバンドと踊り、サハラ砂漠で遊牧民と踊り、タヒチではポリネシアンダンスを・・・とあちこちで踊って きた。添乗員が率先して出ると一緒に踊ったり、手拍子をして楽しんでくれるお客様もいる。添乗員が遊んでいると誤解されるとつらいが・・・。

    (2)音楽
    車窓からの景色をさらに素晴らしいものにするのが音楽。私は行く国ごとに自分で編修したテープやCDを持っていく。その国の民族音楽や、映画音楽、世界 遺産ではテレビの「世界遺産」のサントラなど。ここでこの曲をかけようと考えるのが楽しい。失敗もあるが。イタリアでのこと、昼食後、皆さんうとうとされ ていたので、「音楽をかけますのでゆっくりお休みください。では、プッチーニ作のオペラより・・・「誰も寝てはならぬ」。

    (3)会話教室
    訪問国の言葉が少しでも出来れば旅の楽しみも増えるので、会話のプリントを作っていき、ロングドライブの時に簡単な会話教室を行なうようにしている。

    以上、添乗員としての経験をいろいろお話させて頂いたが、私にとって最も嬉しいのは無事にツアーが終わりお客様に「楽しかった!」「ありがとう!」と言わ れた時。感無量である。帰国後暖かいお手紙もたくさんいただく。「高齢のため医師から今後海外旅行は取り止めるように云われ残念だが、人生最後の旅を坂本 さんとご一緒出来て良かった。」これを読んで涙がでた。人生の大先輩に、私のほうが元気をもらい、学ばせてもらっている。