ペッテンとアルクマール《2》 (2006年11月30日)

 


▲バス停「ECN前」

▲(筆者と)空気を運ぶバス

ペッテンは、オランダの田舎である。
周囲を見渡せば、花畑(ただし、春限定)と牧草地が広がり、西側には南北に走る巨大な堤防が聳え立ち、その向こう側には北海がある。人口の集中する鉄道 駅までは距離があり、車がなければ不便を強いられると思いがちだ。しかし実際は、最寄り駅に向かう路線バスが、平日は30分に1本、週末は1時間に1本走 るので、それほど不便を感じない。

では、30分に1本走るということは、それだけ利用者がいるかというと、ペッテンまでは空気を運んでいることもしばしば、間違いなく赤字である。これが日本なら、ECNへの通勤者がいる朝夕に数本と昼間に2,3本あればいいほうである。

ところが、オランダのバス会社は鷹揚で、運転手は乗客数をカウントする義務を負っていないらしく、路線が赤字だろうが黒字だろうがお構いなし、決められ た始発の時間に出発し、終点まで運転すればそれでよし、のようだ。乗客は乗車時に運転手に降車所を申告し、定められた料金を支払うことになっているが、運 転手は降車する客をいちいちチェックしない。阪急バスの社員が見たらショックで目眩を起こしかねないシステムである。


▲アルクマールのバスターミナル

バス料金の払い方もいくつかのバリエーションがある。乗車時に運転手に現金を支払う方法や区間限定の定期券の他、全国共通一日券や全国共通回数券などが ある。一日券は当然回収されないし、回数券も乗車時の場所と時刻を刻印するだけで、運転手は回収もしなければ使用カウントを記録もしない。オランダ国内に 複数のバス会社が地域ごとに棲み分けをしているが、全国共通券でプールされた資金を会社同士がどのように分配しているかは謎である。もちろん、ペッテン路 線のような明らかな赤字路線が堂々と営業を続けているのだから、税金による補助があることは想像に難くない。オランダのバス会社の運営状況が気になりだす と、昔の漫才師の言葉ではないが、それこそ気になって夜も眠れなくなりそうである。

ときに、公的インフラの民営化先進国といわれるオランダであるが、ことバス会社の運営を見る限り、日本のバス会社のほうが……一部の公営バスを除けばだ が……より健全に資本主義的経営を行っているように見える。これは日本の都市部で競合する複数の鉄道会社にも当てはまることだが、日本のバスや鉄道会社は 精緻な料金回収システムと乗車区間の管理の徹底により、各路線の採算度を厳密に弾き出し、ときには非情に思える減便や路線廃止を伴うものの、無駄な出費を 極力抑える真摯な経営努力を行っている。その分公的補助への依存度は少ないはずで、日本の居住者は納税者としては恩恵を受けていることになるのだ。一方 で、日本の納税者は、これら乗客輸送会社の社会貢献と経営努力に理解を示し、不採算路線を公的資金で維持することに対する寛大さも必要であろう。ペッテン から最寄り駅までの約30分の道のり、筆者はこんなことを考えながら日々うたた寝をするのである。


▲十三とはあまり似ていないSloterdijk駅

ペッテンの最寄の鉄道駅は、筆者が住んでいるアルクマールである。アルクマールからはIntercity(都市間列車)とSneltrein(快速列 車)がそれぞれ30分おきに発車しており、アムステルダム中央駅まで前者で30分、後者で40分、アムステルダムを大阪とすると、京都や奈良ぐらいの距離 感である。ちなみに、アムステルダム中央駅からアルクマール方面へ一駅めのSloterdijk駅は、アルクマール方面、ハールレム方面、ハーグ方面の3 方面への乗換駅で、いわば十三駅である。ヨーロッパ屈指のハブ空港・アムステルダム国際空港(スキポール空港)は、Sloterdijk駅からハーグ方面 へ約10分で鉄道線と直結しているので、遠来のゲストにとっても、アルクマールは比較的便利な町といえる。


▲アルクマールの街角で

アルクマール市の人口はおよそ8万人だが、周辺の商業圏を合わせると10数万人規模の町になる。オランダでは中規模クラスの都市である。オランダの中心 地からさほど遠くなく、歴史もあり人口もそれなりにいるのだが、オランダ都市の中では比較的外国人の割合が少なく、「古き良きオランダ」が残っているとこ ろだという。オランダは古くから流通産業で栄えた国だが、アルクマールを含む北ホラント州の大半は半島部に位置し、流通のメインストリームから外れている ことが幸いしているのかも知れない。
アルクマール近辺の住民にはアムステルダム方面に通勤する住民も多く、平日の朝夕は鉄道・高速道路ともかなりの混雑である。朝8時前のSloterdijk駅は、十三駅と同様多くの通勤客がひしめく。

さて、今回はアルクマールの話を中心に書くつもりだったが、ずいぶん脱線してしまった。鉄道では脱線するわけには行かないが、オランダのバスはルートが工事中なら当り前のようにルートを変更する。バスの話に免じて、今回の脱線はお許しいただくことにしよう。
なお、鉄道についても、いずれ改めてご紹介することにしたい。

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