運河のオランダ語は?(その2) | Vanaf vaart water 運河の上から【第3回】

2012年4月15日

 

前回は市街地の地下水の排水が主目的のgracht、都市防衛のためのsingelを紹介しました。今回はkanaalとslootを紹介します。

【kanaal (カナール)】

アムステルダムから、半島部北端の町デン・ヘルダーまでつながる大運河"Noord-Holland Kanaal"を赤の曲線で表しました(画像クリックで拡大)。鉄道が開通する1920年頃までは、アムステルダムとアルクマールの間を、蒸気船が日に数往復通っていたそうです。 (Google Earthからスクリーンキャプチャ)

大型船が行き来する、都市と都市を結ぶ大運河です。英語のcanalと同じ語源です(発音もほぼ同じ)。アルクマールの街の中心部は、アムステルダムから北ホランド州北端のDen Helder (デン・ヘルダー)に繋がる大運河”Noord-Holland Kanaal”に面しています。kanaalにかかる橋は、鉄道だろうが高速道路だろうが跳ね橋になっていて、どんなに背が高い船でも通れることになっています。町に隣接する運河に停泊している帆船も、帆柱をたたむことなく、高速道路を渋滞させようが、救急車が接近していようが、悠々と開いた跳ね橋を横目に航行していきます。

アムステルダム方面からNoord-Holland Kanaalを北上してきたときの、アルクマールの町の玄関口。左に見える塔は、17世紀前半に建てられた、かつての信号手駐在所なんだそうです。

前方からやってくる大型船に、少し遠慮がちになるkanaal

Singelでスケートを楽しんでいたころ、凍りついたkanaalには帆船が投錨していました。こんな背が高い帆船でも、全ての橋が開く構造なので、kanaalを行き来できます。手前は大型船が行き来するので氷は砕けていますが、念の為に書き添えておきますと、さすがにこの日はカヌーは漕いでいません(笑)。

鉄道だってkanaalにかかる橋は、船が通るときは開きます。電車に給電する架線が途中で途切れているのがわかりますか。さすがに電車の場合は、運行ダイヤが橋が開くのよりも優先で、船はその間待たされるのですが、一般の道路橋では、船が我が物顔で橋を開かせ、周りを待たせて悠々と通って行くのです。

【sloot (スロート)】

都市部が海面下の干拓地だったのと同様、農地も海面下の干拓地でした。そしてもちろん、農地からも地下水が滲み出てきます。場所によっては、滲み出しが非常に多いところもあります。その地下水を排水するための人工水路をslootといいます。英語にはditchと訳されており、ditchの日本語訳は「溝渠」なので、「運河」というより「溝渠」と言うべきかも知れませんが、日常会話で使うと「皇居」と発音が同じなので畏れ多いです(笑)。

slootの水位はkanaalなどの水位よりさらに低い場合が多く、そんなslootの水をkanaalに汲み上げるのが、かつて風車が果たしていた重要な役割の一つでした。現代は水位監視装置が自動的に電気ポンプを起動する仕組になっています。

前回紹介したgrachtと、見た目は全く異なりますが、滲み出してくる地下水の排水が主目的という点で、両者は似通っています。

slootは農地から滲み出る地下水を集めてkanaal等、より大規模に排水できる水路に導きます。slootは水位がkanaal等より低い場合が多く、slootの水をkanaal等に汲み上げるのが、かつて風車が果たした重要な役割でした。

地下水の滲出量の多いところでは、多少の農地面積を犠牲にしてでも、slootの占める面積を増やしたようです。それでも貴重な干拓した土地をより有効に使うため、舟でしかアクセスできない不便を押してでも、昔のオランダ人は農地を開発していました。

風車と電気ポンプ管理小屋(手前の青い建物)が並んで建っている様子。この風車は持ち主が余暇を利用して管理していますが、ポンプ機能はもうありません。

かつて細切れの農地だった干拓地も、農業が機械化された現代では生産性が悪く、最早ほとんど商品作物の栽培には利用されていません。一方で一部にはアクセス用の道路が整備され、高級住宅街として生まれ変わっています。三方をslootに囲まれた広い庭、自家用モーターボートと屋根付き艇庫という、贅沢な家々が立ち並んでいます。

続きは次回に

ようやく次回が連載タイトルのvaartの紹介です。では、今回はこのへんで。

2012年4月15日
小松雄爾(97期)@オランダ・アルクマール在住(ブログ)