【278回】2月「かかりつけエンジニア(学校安全)と子どもの安全~子どもは小さな大人ではない~」

 

 

Ⅰ.日時 2026年2月18日(水)11時30分~13時00分
Ⅱ.場所 バグースプレイス パーティルーム
Ⅲ.出席者数 47名
Ⅳ.講師

瀬戸 馨さん@85期

公益社団法人日本技術士会登録 子どもの安全研究グループ会長

京都大学大学院工学研究科(土木工学)修了

建設省(現国土交通省)入省後は主に道路行政に従事

長崎工事事務所では、雲仙普賢岳噴火災害の火砕流、土石流による長期にわたる国道の通行止めと復旧に対応、首都国道工事事務所では、千葉の外環道路の用地取得を中心に対応、大阪国道事務所では、御堂筋を含む国道の管理を担当し、サッカーワールドカップ日韓大会、2度にわたる阪神タイガース優勝時の雑踏対策(道頓堀)に対応、沖縄総合事務局では、普天間基地返還決定までの関連する様々な事柄に対応(右往左往)

国土交通省の現役時代に設立された子どもの安全研究グループに参加、退官後も建設会社に勤務しながら、現在同グループ会長を務め、門前の小僧ながら子どもの安全の専門家として、NHKをはじめ民放各局に出演するなど子どもの安全に関する調査研究と情報発信を続けている

2025年春に瑞宝小綬章を受賞。

 

Ⅴ.演題 『かかりつけエンジニア(学校安全)と子どもの安全~子どもは小さな大人ではない~』
Ⅵ.事前宣伝 我が国の子どもの死亡原因のうち不慮の事故が各年代の上位を占めており、工学的な予防対策により防げるものも少なくない。これに対して技術士を中心として子どもの安全研究グループが2009年に設立され、学校や家庭での安全についても活動している。学校現場では安全点検をはじめ技術面で教職員の手に余るものも多い。そこで私たちは、学校医(かかりつけ医)のように、地域にいるエンジニアを活用して学校の技術的課題に対応する「かかりつけエンジニア構想」を提案し、モデル実施している。今回は、技術的な内容よりもエンジニアが学校や家庭での子どもの傷害(事故)について感じていることをお話しできれば幸いです。
Ⅶ.講演概要 紹介者は高校大学時代の同期生で、大学では同じクラブで活動されていた谷藤慶一さん(85期)。「瀬戸さんは高校と大学では水泳部に所属され、自由形と背泳の選手として活躍されました。最近ではマラソン・トライアスロン競技に挑戦しておられます。瀬戸さんは、昨年12月14日に開催されたハワイのホノルルマラソンを完走されたばかりですが、本日より4日後(2月22日)に開催される大阪マラソンにも参加されると伺っています。長年、国家規模の安全管理事業に携わってこられた傍ら、瀬戸さんがライフワークとして取り組まれてきたのが、工学的な立場から子どもの安全を研究し発信する活動です。本日は技術的な難しいお話しよりも、エンジニアの視点から長年現場をみつめてこられた経験を元に、子ども達への深い慈しみと思いが込められた貴重なお話しを伺えると思います。」

1.はじめに

日本人は、安全はタダ(無料)で手に入ると思っている。当然、「子どもの安全」を守るのに、お金を出そうとは考えない。そのために「子どもの安全を守る」プロフェッショナルは職業として成立していない。私は、マスコミや報道の場では「子どもの安全専門家」として紹介されるが、日本技術士会の「子どもの安全研究グループ」に、創設当初から10年以上所属している門前の小僧にすぎない。本日は、「子どもの安全を守る」にはどのように考えればよいのかを、私のエンジニアとしての個人的な視点からお話しする。

 

2.「子どもの教育」とは

1)「子どもの教育とは何か?」をAIに聞いてみた。

知育、体育以外の目的の一つとして、(夢や憧れではなく)自らの可能性に気づくこと。そのために挑戦し、失敗しても立ち上がる折れない心を育てること。「学校」はそのための安全な実験場である。

AIによると、挑戦して失敗してもかまわない、たとえ失敗しても安全な場所が「学校」とされていた。

 

2)「教師の役割とは何か?」

(私見)「失敗するかもしれない困難への挑戦を手助けすること」

(仮説)良い教師は、子どもに「楽観主義」を教えている

 

3)「子どもの特性とは?」

そもそも子どもは楽観的で理由のない自信にあふれている。なぜなら、子どもは成長したいという衝動に突き動かされて行動するので、最初から失敗することを考えて行動しない。

 

4)クイズ

クイズ1 北野高校時代に何かになろうとしていましたか?

クイズ2 そのために背中を押してくれた恩師はいましたか?

 

3.学校の安全

1)安全管理の鉄則「最悪の事態を想定して、最善の方策を選ぶ」

・例えば、運転免許の更新講習では「(多分大丈夫)だろう運転は、事故のもと」と教えている。

・危機管理である防災の現場では、起きないかもしれない地震や洪水が起きると想定して耐震対策や治水対策を実施している。

 

2)「楽観主義は安全の敵!」

理想の教師が「夢に向かって努力すること」を教え、「失敗するかも知れない困難への挑戦」を促すために、子どもに「楽観主義」を教えるのなら、このような教師は、安全管理に向いていないのではないかと思う。ドラマでは、金八先生(武田鉄矢)は理想の教師(楽観主義者)として描かれているが、私には金八先生が良い安全管理者になれるとは思えない。

 

3)「絶対安全(ゼロリスク)はお祈りの対象」

・「学校は安全な実験場」なので、学校関係者がよく言う「学校で事故はあってはならない」は、理念としては全く正しい。しかし、この理念を安全管理の目標としてはいけない。なぜなら、工学的な考え方では、ゼロリスクは実現不可能とされるからである。

・学校でゼロリスクを達成する唯一の方法は、(コロナ自粛の時のように)子どもを学校に登校させないこと。

・子どもが学校に登校してくる限り、工学的にゼロリスクを達成する手段はない。手段がないので大人(教師)は何をしていいのかわからないし、実際何もできない(何もしない)。できることは、事故が無いように安全を祈ることだけ。つまり、絶対安全(ゼロリスク)はお祈りの対象にしかならない。

 

4)「学校の事故はコピペ事故」

・もし学校で事故が起きたら、謝罪会見で謝るだけでは意味が無い。

・「再発防止」のためには、事実を確認し、原因を究明し、対策を立案・実施することが必要。

・実際には、様々な事情で事故を隠そうとする傾向がある。その結果、他の学校に情報(事故の実例と再発防止策)が共有されないことで、全国の学校で同様の事故が繰り返し起こっている。

・「学校の事故はコピペ事故」である。

 

5)「気をつけましょうでは、事故はなくならない」

・よくある再発防止策・事故予防対策に、「事故が無いように気をつけましょう」「安全に気をつけましょう」というものがある。これは、学校関係者だけでなく報道でもよく使われる言い回しである。

・「気をつけましょう」では事故はなくならない。なぜなら、「気を付けましょう」は願望を述べただけで、具体的な対策を講じないなら「事故が起こらないことを祈りましょう」とほとんど同じ意味。祈るだけでは事故を防ぐことできない。

 

6)正しい再発防止策・事故予防対策

・学校では事故が起きる前に対策を講じて事故を予防することが大切。

・「事故はあってはならない(絶対安全)」を目標にすると何もできなくなる。

・「事故は起こる」ことを前提として、その事故(リスク)の発生確率とケガの程度を最小にするよう目標をたて、優先順位を決めて予防対策を実施する必要がある。

事故予防対策の手順

(1)どのような事故がいつどこで起こる可能性があるか(リスク分析)

(2)事故による傷害の程度・頻度は受け入れられるか(リスク評価)

評価の結果さらなる対策が必要ない場合は(2)で終了

(3)対策が必要な場合に対策の立案・実施(リスクの低減)

(4)対策が実施されたとして(1)に戻る

※(1)リスク分析(2)リスク評価をあわせてリスクアセスメントと呼ぶ

 

4.かかりつけエンジニア構想とは

かかりつけ医(学校医)のように、地域にいるエンジニアを活用して学校の技術的課題に対応する。

1)消費者庁・消費者安全調査委員会(消費者事故調)が文部科学大臣に「学校の施設又は設備による事故等」調査報告書を提出した。(2023年3月)

それに対して、文部科学省は「学校における安全点検要領」をweb公表した。(2024年3月)

(問題点):学校で多くの事故(窓からの転落、ロッカー転倒)が起きている。それらはコピペ事故である。学校現場には安全点検やリスクアセスメントに対応できる人材が充分ではない(教員の仕事ではない)。教員が教員養成課程で教わる安全管理知識では不十分。

(消費者事故調の提言):緊急点検・安全点検手法の改善(リスクアセスメント手法の導入)、外部人材(専門家)の活用

 

2)外部人材の活用について

学校現場では安全点検・リスクアセスメントに対応できる人材がいない。

案1 消費者事故調の提言:専門家(技術士・労働安全衛生コンサルタント等)を活用

案2 子どもの安全研究グループの提言:かかりつけエンジニア構想

 

3)かかりつけエンジニア構想

かかりつけ医(学校医)のように 地域にいるエンジニア(専門家)を活用して学校の技術的課題に対応する。近場のエンジニアを配置することで、各学校の安全に機動的、継続的に関わり続けることができるメリットがある。

 

4)かかりつけエンジニアの役割(何をするのか)

・実際に起こった事故事例を元に、事故原因を工学的に検証・解析し予防対策を提言する

・モデル校での4つの提言

定期点検時のエンジニアの同行(主に老朽化点検)

2021年4月北九州市の中学校体育館でバスケットゴール落下事故が起き、生徒がケガをした。原因は溶接部の老朽化だった。老朽化した溶接部の傷は専門家でも簡単に判別できない。このように老朽化した設備・備品の点検に同行し技術的なアドバイスを行う。

施設・設備や備品の整理・整頓(メンテナンス台帳の整備)

2021年4月宮城県白石市で防球ネットの支柱が倒壊し児童が死傷した。多くの学校では所有者・管理者の分からない設備・備品が山のように置かれている。設置年度や耐用年数、メンテナンス状況が分かるよう、メンテナンス台帳の整備を提言。

生徒への安全アンケートと安全授業

危ない場所はどこなのか?実は生徒の方がよく知っている。香川県善通寺市の小学校などで、生徒に対して危険箇所のアンケートを行なうとともに安全授業を行ない危険の回避について学んでいる。

老朽化以外の点検(リスクアセスメント)

2008年6月東京都の小学校で以前は立入禁止だった屋上の天窓に児童が乗ったところ、天窓が壊れて児童が転落して死亡した。消費者事故調から緊急点検が提言された窓からの転落やロッカーの転倒なども老朽化が原因ではなく、リスクアセスメントを実施する必要がある。

 

5)かかりつけエンジニアのメリット

全般:学校における児童・生徒の傷害(事故)を予防できる

子ども:さまざまなリスクを学び、成長する

学校:学校管理・運用における安全性向上、計画的なモノのメンテナンス、これらを通した教職員の負担軽減

エンジニア:社会貢献(保有スキル活用)、子どもや学校のことを知ることで技術力が向上する

 

6)かかりつけエンジニアの課題

学校:安全についての体系的な知識が不足している

エンジニア:学校教育の専門家ではない、子ども固有の特性についての知識・経験が不足

 

7)かかりつけエンジニアの課題への対応

・地域にいるエンジニアが必要な知識を習得(かかりつけエンジニアの養成講座)

・多くの関係者(教職員・保護者・地域関係者)とともに学校の安全を支える

 

5.子どもの安全

1)ISOガイド50 子どもの安全の国際基本規格

「安全側面-規格及びその他の仕様書における子どもの安全の指針」は2016年JIS化されているが、誰も知らない。象徴的なフレーズ「子どもは小さな大人ではない」

 

クイズ3 1.1mの柵のあるベランダから、例えば身長1.7mの大人は、普通転落しないのに、身長1mの4歳児はなぜ転落するのか。

正解があるわけではないが、子どもは大人と異なる行動をとるなど、子ども固有の特性を持っている。そして、その特性は成長に伴い急速に変化する。

 

2)「子どもの安全は社会の責任」

・世界基準(ISOだけでなくWHOでも)では、「子どもの安全は社会の責任」とされている。

・日本では、「子どもの安全は親の責任」という考えが強い。

・日本では事故が起きるとSNSなどで「子どもを見ていない親が悪い」と言われ、親も自分が悪かったと考えるため製品や環境の問題点が指摘されない。その結果、原因が究明されず、製品の改善などの再発防止策がとられない。そして同じような事故が繰り返し起こる。これを指して「子どもの事故はコピペ事故」と言われている。

・親(大人)が目を離していても子どもの事故(傷害)が起きない、安全な製品・環境が望まれる。

 

3)子どもは誰のものか-文化的背景-(私見)

・国際的には「子どもは社会のもの」とされている。なぜなら子どもがいないと社会が持続できないから。

・日本では「子どもは親のもの」という考えが強い。子どもがいないとイエが持続できないからかもしれない。子どもの安全だけでなく高齢者や障がい者の福祉もイエが担ってきた。

・文化的背景を無視して「子どもの安全は社会の責任」と言っても定着しない。日本の文化に沿う形で子どもにとって安全な社会を作っていく方法を探していかなければならない。

 

4)CDR(Child Death Review:予防のためのこどもの死亡検証)

病気や事故などで亡くなった子どもの死因や背景を、医療・警察・行政などの専門家が連携して検証し、同じような死亡を二度と繰り返さないための「予防策」を導き出す仕組み

 

こども家庭庁CDR

・「コピペ事故」は本当に親だけの問題か?親が声を上げないといけないこと自体適正か?

・令和2年から厚生労働省でモデル事業を開始(現在は子ども家庭庁)、令和6年には10都道府県で実施。

(北海道、福島県、群⾺県、東京都、⼭梨県、三重県、滋賀県、京都府、⿃取県、⾹川県)

 

先行事例としてのアメリカのCDRの特徴

・全国データベースによる一元的分析:州ごとのデータを統合し、全国的な傾向を把握。

・多職種・多機関連携の徹底:医療・警察・福祉・教育などが同じテーブルで議論。

・ 政策への反映が強い:公衆衛生政策、法律、教育プログラムに直結。

・ 乳児・胎児死亡(Fetal & Infant)も含む広い範囲。

 

  • 1970年代:虐待死対策として始まる
  • 1990年代:州レベルで制度化、対象が全死亡へ拡大
  • 2000年代:全国センターと共通データベースが整備
  • 2010年代以降:政策形成に活用される成熟した公衆衛生システムへ

 

6.まとめ

本日は「子どもの安全グループ」活動の一部である学校の安全について紹介した。他の活動についてもホームページに詳しく掲載されているので関心がある方は参考にしていただきたい。

公益社団法人日本技術士会登録 子どもの安全研究グループhttps://kodomonoanzen.jp/

瀬戸さんQR

 

Ⅷ.質疑応答 清徳 則雄さん(79期)
Q:SNS利用による子どもの性被害が増えています。この問題について、どのように取り組まれていますか?

A:この問題は主に行政(警察庁やこども家庭庁など)が取り組んでいます。私たちは物理的な事故から工学的・技術的に子どもを守ることを目的とするエンジニア集団で、SNS上の性被害問題にアプローチできていません。子どもの安全を守るのは学校の先生方の役割(責任)とされていますが、現場では先生の数が圧倒的に足りず、先生方の業務負担は増えるばかりです。しかも、先生方の大変さが伝われば伝わるほど教員志望者が減少する悪循環が起こっています。かかりつけエンジニアを配置することで、教員の負担軽減に役立てればと考えています。

 

辻 伸二さん(84期)

Q:多くの関係者(教職員・保護者・地域関係者)が協働して学校を支える活動について、もう少し詳しい解説をお願いします。

A:余り知られていないのですが、文部科学省はコミュニティスクール(学校運営協議会制度)を推進しています。コミュニティスクール(CS)とは、学校と地域住民が協働して一緒に学校運営に参画する仕組みです。令和6年時点では全国公立小中学校の 約52.3% がコミュニティスクールを導入しています。学校はCS制度も活用して、かかりつけエンジニアを導入していただけるとよいと思います。

 

Q:子ども時代に、危ないことを安全な形で体験することこそが最も重要だと思うのですが、今の学校では、例えば科学の実験をやらせないことで安全を確保しようとします。このような現状についてどのようにお考えになりますか?

A:AIの回答では「学校は安全な実験場」で、挑戦して失敗しても安全な場所とされていました。しかし実際はゼロリスク(学校で事故はあってはならない)を目標にするあまり、実験場としての役割が果たせていません。私たちは学校における事故の事例を研究・解析することで、「学校における安全な授業の実践方法」などを提言していきたいと思います。

 

野田 美佳さん(94期)

Q:私が子どもの頃、近所の公園には沢山の遊具があって、楽しく遊べる場所だったのですが、今の公園は遊具が取り払われた、ただの広場になってしまって、子ども達が遊ぶ姿を見かけなくなりました。現代の子どもにとって遊具はそんなに危険な物なのですか?また、以前のように遊具で遊べる公園を運営するのにはどのようにすればよいとお考えですか?

A:工学的な立場で見ると、子どもの遊具とは特殊な製品です。安全でありながら子どもの成長に役立つチャレンジ機能を持たせなければなりません。世界の多くの国は遊具に欧州規格を採用していますが、日本では独自の安全規格が設けられています。詳しくは— 遊具の安全規格 EN1176|子どもの安全研究グループをご覧ください。

 

Ⅸ.資料

260218東京六稜_楽部「かかりつけエンジニア(学校安全)と子どもの安全」 (3)

記録:野田 美佳(94期)

Ⅹ.講演風景 260218 - 髮・粋260218 - 1260218 - 3260218 - 8260218 - 12260218 - 13260218 - 14260218 - 15260218 - 16260218 - 17260218 - 20260218 - 25