第39回   「航空機の安全性~ハイテク機におけるヒューマンファクタ」   佐藤達男さん@75期

reporter:峯 和男(65期)

    日時: 2006年3月15日(水)11時30分~14時
    場所: 銀座ライオン7丁目店6階
    出席者: 55名(内65会会員:正林、山根、峯 )
    講師: 佐藤達男氏(75期)
    演題: 「航空機の安全性~ハイテク機におけるヒューマンファクタ」
    講師紹介: (同期生からの紹介)講師は京都大学工学部航空工学科卒業後、富士重工業入社、34年間航空機の開発業務に従事、この間構造設計、航空自衛隊の航空機、 ボーイング707、無人飛行機の開発等の諸業務に従事した。現在も富士エアロスペーステクノロジー(株)常務を務める他、帝京大学理工学部非常勤講師とし て後進の指導に当っている。
    講演内容:
    (要点のみ)
    (1)自分が大学を卒業し社会人になったのは昭和42年、美濃部氏が東京都知事になり、ツイッギーの影響でミニスカートが大流行したことなどを記憶してい る。この頃、三菱重工、富士重工などがビジネス用の航空機の開発を始めた。売り上げは、当時1千億円程度であったが現在は1兆4千億円、これまでGDPの 伸びと略同じ伸率で伸びてきているがこれでは一寸寂しい。航空工学は人柱工学などと言う人もいるが、本日は航空機の安全性を中心に話をしたい。

    (2)最近の航空界の話題は、米国と欧州の覇権争い。10年前迄はボーイングが寡占状態であったが、欧州のエアバスがこれに挑戦し2001年にシェアを逆 転させた。また、安全性の面では17~8年前からコンピューターが導入され新しいタイプの事故が出始めた。即ちコンピューターが意思決定の中に入ってき た。安全性についても米国と欧州では考え方が異なる。米国は人間を中心に考え、欧州は機械を中心に考える。

    (3)航空機の安全性―ハイテク機は何故自動化するのか
    i)旅客数の伸び:(省略)
    ii)死亡事故数の推移:百万回に一回位。(限度に近い?)
    iii)死亡者数推移:百万回に50人位。
    iv)死亡事故ワースト10エアラインズ:尤も事故率の少ないのは米国のサウスウエスト・エアライン。JALは1960年代世界一安全だったが1985年の御巣鷹山事故以来その安全神話は崩れた。
    v)ジェット旅客機の世代:(省略)
    vi)飛行フェイズによる事故発生率:離陸13%、最終アプローチ 19% 着陸31%(着陸時が最多)
    vii)事故原因―自動化の必要性:乗員、パイロットのミスが60%もある。
    viii)機種別死亡事故率―自動化の成果は?:第一、第二世代は旧来のもの、第三世代からハイテク機になったが自動化したから安全になったとは云えない。

    (4)自動化と新しい問
    i)コクピット(操縦室)の変遷:以前は3人いたがハイテク機は2人に減少。
    ii)自動化と操縦権限:自動化の進展に伴いパイロットの操縦権限は減少。
    iii)三人目のパイロット:
    (イ)FMS(Flight Management System)はコンピューター・プログラム(ソフトウェア)。作り手(技術者)は安全な所(机の前)にいる。墜落するかもしれない立場にいるのはパイロット。緊張感に差がある。
    (ロ)パイロットとFMSのコミュニケーション・ギャップ:FMSは、コントロールを乗っ取る権限を持つ、が・・・何が起こっているか一切語らない。手遅れになっても告げない。自ら死ぬことをいとわない。
    (ハ)ソフトウェアにはヒューマンエラーはないのか?

    iv)自動化の設計思想:
    (イ)米国:ボーイング社の考え方は自動化はパイロットの手助けをする手段でありパイロットの操作をオーバーライドするものであってはならない→人間重視
    (ロ)欧州:エアバスの考え方はパイロットが無意識に安全限界を超えないよう自動的に防止する技術があるなら、その技術を採用しなければならない→コンピューター重視

    v)ハイテク機事故の特徴:
    (イ)自動操縦システムへの過信
    (ロ)モード認識の混乱(モード切替のミス)
    (ハ)パイロットと自動操縦システムの対立(反対操作をやってしまう。いろいろな条件が重なると失速してしまう)
    (ニ)自動操縦システムの設計不備

    vi)自動化がもたらす新しい問題:
    (イ)状況認識力の低下または喪失
    (ロ)システム理解の不十分
    (ハ)技量や熟練度の低下
    (ニ)誤信号によるエラー
    (ホ)パイロットが単調、退屈に陥って生ずるエラー
    (ヘ)危険に対する警戒心の低下
    (ト)仕事のやり甲斐の喪失
    (チ)精神的ワークロードの増加

    vii)自動化のあるべき姿とは:
    (イ)パイロットは何時まで「飛行安全の最後の砦」であり得るか
    (ロ)自動化は避けて通れない→望ましい自動化とは
    (ハ)機会中心の自動化→人間中心の自動化
    ※コントロールの本拠は人間
    ※人間が操縦し、機械がモニターし、バックアップする

    【報告者注】講演はパソコンとプロジェクターを使用し、映像をスクリーンに映しながら行なわれた。又、出席者にはグラフ入りの説明資料が配布された。