われら六稜人【第26回】科学を志す人のために


プロスタグランジンD合成酵素の結晶を観察
写真提供■OBI第2研究部

第9研究室
研究の本質

    私たち「睡眠」の研究チームでは、20人くらいの研究者がグループで研究を進めています。その中では分担が非常にはっきりしていますので、例えばある人は 「生理学的」な実験をしている人もあるし、「形態学的」な実験をしている人もいる。「分子生物学的」な実験をしている人もいて、みな異なった攻め方をして います。
    一つの大きな目的に向かって、みんなが相互に協力して全体像が見えてくる…だから、むしろ協力してやるということはあっても、その間に競争というものはあ まりないと思います。もちろん、ある特定のグループの研究がバンバン成果を出して、どんどん雑誌に発表したり、外国に招待されたりすると、ちょっと嫉むと いうか、ジェラシーを感じることはあると思いますよ。でも、そんなことよりも外国の研究チームが先にスクープしないだろうか…ということのほうが、もっと 気になりますね。それは良きにつけ悪しきにつけ、われわれが常に意識しなければならない事柄なのです。われわれの研究というのは世界レベルで進行しているものですから… タッチの差で向こうが早く出したらそれで負け。一月遅れてもいけないし、いわんや一年も遅れると全然だめです。1999年にあちらが出したものを、 2000年にこちらが出しても、もう値打ちが全然違います。そういう外国との競争については非常に意識します。

    ですから私の経験談としても、同僚と競ったという思いはありませんな。同じグループの中で競争を意識するのは稀であって…むしろ、本当の競争は遠いところ で起こる可能性のほうが強いのです。人間の考えることは大体似てますから、自分だけが本当にいいアイディアを持っている…なんていうことは非常に少ないの です。
    学問の流れというものは世界的なものですから、ここで考えていることはよそでも考えられていることが多い。それをいかに早く実験まで漕ぎ着けて、速く発表 するか…ということで勝敗が決まるわけですから、外部に対する競争心は非常にありますよ。ですから、意識的に未発表のデータは外に漏れないように留意して います。


    マウスの睡眠解析装置

    目の前にあるのに見えていない…でもそれが何かの拍子に見える。一回見え出すと、どんどん見えてくる。そういうもんなんですね。研究というものは。
    いろんな事が発見される時、それまで誰もが見てたんですが、見とって見えていない…ボヤっと見ているからね。事実はそこにチャントあるんですが、ボヤっと 見とると解らない。だけど、ちゃんと焦点を当ててみると初めて見えてくるし、それが如何に大事なものかが解って、それにまつわるいろんな事が見えてくる。見えてたけれど認識できてなかった。それに気がつくということが研究ですから、実際「鈍」じゃないとアカンのです。あんまり賢いと…何でも自分で解った気になってしまうからね。教科書読んで納得してしまったら、それで終いでしょ。何ら新しい発見に繋がらない。
    その代わり、そういう人はいろんなことを知っていますから、例えば裁判官なんかに向いている。六法全書を隅まで知っていなければいけませんからね。私なん か裁判官になったら全然ダメ。鋭い人は正宗の銘刀みたいなもので…でも一方で、大きな木を伐るのには鈍なナタでなければならない…というような適材適所が あります。ですから人それぞれに良いところがあって、それを存分に活かせるのが幸せだと思うんですがね。

Update : Nov.23,1999

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