われら六稜人【号外】「いのちの携帯電話」が鳴った日

第9病棟
心臓移植、次なるステージ

    心臓移植をしても普通の生活はエンジョイできないんじゃないか?とか、一生、体に負担がかかるんじゃないか?とか…憶測で様々な誤解が蔓延してるんだけ ど。そんなことはないんです。だってね…普通の心臓手術というのは、心臓そのものがヘコタレて…もう持ちそうにないのを、弁だけ代えたり、バイパスを付け たり…駄目な箇所だけを修理する手術だからね。新しい元気な心臓を移植して、すっかり取り替えるほうが、ずっと元気になりますよ。他がどこも悪くなくて心 臓だけが動かなくなった人が移植の対象者なんだから。それから心臓移植の費用にも皆さん興味があるようだけど…補助人工心臓をつける場合に比べたら、3分の1のコストで済むんじゃないかな。まだキッチリとした比較数値は算出されてないけどね。
    人工透析なんか…ご存知のようにすごい費用がかかるでしょ。その点…トータルで考えれば、移植のほうがはるかにコスト的には安くあがると思うよ。

    今回の手術に関して言えば、まだ一例目ということもあって決まっていないんだけど…今後、厚生省でも保険が適用されるように考えているみたい。高額医療という認定が決まれば、個人の負担は6万円で済むからね。

    補助人工心臓のほうはどうか…というとね。現在、日本では4~5人の患者さんが装着しているんだけど、これは合併症が多く、特に脳梗塞で亡くなる人が多い んだ。どうも機械の中で血が固まって…それが外れて脳の血管を詰まらせるんだね。機械の構造上はそうならないようにしているんだけどね。臓器移植は欧米では当たり前の医療として行われているけど、希望者に比べて臓器を提供できるケースが圧倒的に少ないのが現状。だから今後はまず人工心臓の 開発が必要ですね。いま使われているような人工心臓ではなくて、動力源もすべて体内に埋め込めるタイプ。そうでなければ普通の生活が出来ないから不自由で しょ。エネルギーは…電気が皮膚を通して充電できるから…供給できるしね。ただ…そんな「未来の人工心臓」は開発にお金がかかり過ぎるということもあっ て、なかなか進まない。待っていても、いつになることやら…。

    僕がいま進めているのは「ブタの心臓をヒトに移植する」という研究(笑)。これね…ホント、笑いごとじゃなくて真剣に取り組んでるの。ブタというのは解剖 学的にも生理学的にも動物の中で一番人間に近いんだ。 全身火傷の患者さんにブタの皮膚を移植する…といのはもう実用されているし。

    大人のブタの心臓は成人のそれよりだいぶ大きいんだけど…子ブタのまだ小さい心臓を取り出して人間に移植すれば、アトはちゃんと新環境になじんで人間に合 わせた大きさで成長するんだ。生物の不思議だね。いや…もちろん、まだ人間には移植していないよ…猿で実験をしている段階。

    ただ…まだ、残念ながら今のところ移植後分単位で駄目になってしまう。黒く固まっちゃってね。そこで、人間の遺伝子を入れてブタの心臓をヒトのタンパク質 で覆ってやると、ヒトの体内に入れてもヒトの血液はブタの心臓をヒトと勘違いすると思うんだ。一種のメクラマシ(?)というか…。学者の中にも「そんなア ホな」という人は多いけどね。

    これ…医学の話として聞いてくださいヨ(笑)。

Update : Mar.12,1999

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