われら六稜人【第13回】建築家の跳躍力

5階
竹山聖の建築学概論
【序説】

    確かに、建築も最後には「形」を扱うワケですけれども、アーティストと同じプロセスで「形」を取り扱うというようなことは滅多にないと思うんですよ。学生 の駆け出しの頃はそういう奇抜なアプローチをやってみることもありますけど、あまりにリスクが大きいのと、うまく行かないことが多い。建築でいうところの「形」(フォーム)…これを僕は、いくつかの形が組み合わさることが多いので「コンフィギュレーション」と呼んでいるんですが…このコ ンフィギュレーションにたどりつく前に、かならず必要な2つの要素があると思うんです。ひとつは「コンテクスト」、敷地の条件ですね。敷地自体が傾いてい るとか、川沿いにあるとか、あるいは街中にあるとか…それからどんな建物が隣接しているか、など。たとえば今回、同窓会館を考えるという時には校舎の中の どこにどういう風に位置づけるか…というような問題もあると思います。

    コンテクスト=「文脈」ですね。外的な条件をどういう風に読むかということが非常に重要な要素になってきます。これは物理的なコンテクストのみならず、文 化的あるいは歴史的なコンテクスト…これはなかなか目には見えにくいのですけれども…人文的な、ヒューマンな、人間的なコンテクストが一方にあると思いま す。 クライアント(依頼主)がどういう要望を持っているか、役所がどう判断するか…(これは日本でも世界でも同じことなのですが)…建築というのはどんなに個 人の資産であっても社会的な影響力を持ちますから、公共がある程度チェックをすることになっているんです。その公共がどのような考えを持って、クライアン トが、ユーザーがどのような考えを持って、あるいは期待するだろうか…ということまで想像し、それから敷地の条件がどうだということも踏まえて、建築1 個…ひとつの建築が置かれる周りのコンテクストというものを捉えるのがひとつです。

    もう一つの必要な要素が「プログラム」…簡単に言うと用途とか機能とかそういうものに近いですけれども、これが図書館なのか美術館なのか住宅なのか、ある いはそういう従来の枠組みに入らないような(今回の同窓会館のような!)…「同窓会館」というとみなさん分かったような気でいますが、これがまだ分らない ですね。機能検討委員会というのが発足してプログラムを一生懸命に考えている。同窓会館。OK。同窓会の会館を造ろう…そうは言っても、じゃあ何を造るン だ?と言った時に、それを考えないといけません。その具体的な内容…内的条件とでもいいますか。

    コンテクストという外的条件、プログラムという内的条件…表層的な「形」なんてものは、ある意味では無責任にポッポっと出てくるんですが…そうした諸条件 を押さえて、どういうふうな客観的な条件があるのかということをすべて捉えて、そしてそれらを的確に分析して、優先順位をつけること…これがまず「形」が 出てくる前にしなければならない建築家のシゴトなんです。

    ただ…それが一応、手続きとしてはそうなんですけど(実はこの「前さばき」ができないと建築家としてはマズいんですが)、本当に建築家として一番重要なの は…実は、これら前さばきができて与条件をすべて分析した後に、一刀両断でバシッと切ってですね…まったくオリジナルな彼独自の解釈で造形に持って行く… 最後のこの「ジャンプ力」が求められるンです。ここには、えも言われぬ暗くて深い川が横たわっている(笑)。

    前段の部分というのは、だいたいドコの企画事務所でもプランナーとかでも的確にこなせる人は多いンです。だけど、その先で最後に「形」になるかどうか…素 材でも良いんですが、あらゆる条件を踏まえて最後にキッチリとした形を提出できるかどうかが、やっぱり建築家に問われる最大の資質であると思いますね。 もちろん、建築家には社会的な責任がありますから、最初からジャンプするだけの奴は押さえられますが、最後にジャンプ力が無い人は…やはり諦めたほうが良 いんじゃないかと言われますヨ。

Update : Oct.23,1998

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