太陽電池と「低い国」と〜民間企業研究者の海外転職記【第16話】
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オランダで家を買う《8・終》仮住まいの終り


 公証人事務所の職員に声をかけられ、いよいよ会議室に招き入れられた。公証人はいかにも経験豊富そうな貫禄のある人物だった。


▲会議室での席順
 会議室の奥には売主夫妻が、廊下側に我々夫婦と通訳P、右手に公証人、左手にそれぞれの不動産屋の配置で席に着いた(図参照)。売主夫妻の子供は早速隅っこで携帯ゲーム機を取り出して遊び始めたが、子供の退屈しのぎを持参するのをすっかり忘れていた筆者達がどうしようかと戸惑っていると、通訳Pが自分の電子手帳(PDA)を取り出して、子供達に日本語でゲームの遊び方を説明した。子供達も大人しくそのゲームに興じ始めた。

 コーヒーも行き渡り、一通りの挨拶が終わると、公証人が契約書中の重要事項の確認や、今後のプロセスなどの説明を始めた。通訳の存在もあり、ここからは全く英語は登場しなかった。これまでは、筆者とオランダ人たちの口頭のコミュニケーションは、いつも英語を使っていたが、今回彼らは決して英語を使わず、筆者らも通訳を介して日本語で意図を伝えた。

 会議の席自体は仰々しいが、よくある不動産取引の一つである。公証人や不動産屋達にとって普段と違うことといえば、買手がオランダ語を理解しない外国人であるというぐらいなので、契約書の中味には特別なものはなかった。疑問に残った事項が全くなかったわけではなかったが、通訳への再度の質問で概ね納得することができた。
鍵とシャンペン
 売買契約が無事締結し、売り手が筆者に鍵を渡して立ち去った後、抵当権設定の確認がされた。内容は、ローン仲介業者Hから事前に説明を受けていたものと矛盾せず、通訳Pの説明のもと、抵当権設定の契約書へ署名を行った。
 通訳Pは帰り際、商売道具のシャンペンを1本、契約締結のお祝いにとプレゼントしてくれた。お互いの連絡先を交換し、今後の付き合いを約束して帰っていった。

 もし、通訳が来ることを事前に知っていて、自分の知り合いの日本人の日蘭通訳を呼ぶ、と公証人に伝えていたらどうだっただろう。確かに、“登記簿”とか、“抵当権抹消”とか、不動産取引に特有の日本語単語はあまり詳しくなかった。しかし、オランダで生まれ育ったPのオランダ語は完璧なはずだし、不動産取引などのオランダの習慣にもある程度通じているに違いない。日本人の通訳を呼んだ場合、それだけの経験が期待できただろうか。
 それ以上に、通訳を使う側にすれば、通訳の日本語能力の実力と限界をある程度推し量ることはできるが、外国語能力は評価できない。外国語が完璧という前提で付き合わざるを得ないので、通訳を選ぶなら外国人の方が無難、ということが、今回の一件を通して理解できたように思う。


▲売買契約成立後に購入した脚立
天井も高いので生活必需品である
 その後は不動産屋Mの助けを借りて電気・水道などの使用開始手続き(当然オランダ語)をし、「何かあったら連絡を」のメッセージとお祝いのワインを置いてMは帰っていった。暑い中電灯を選びに行ったり、脚立を買いに行ったりは、さらにその後の話である。お祝いのシャンパンとワインを開けたのは、線路通りの家からの引越が完了してからのことであった。

 「オランダで家を買う」シリーズ、当初意図していたものより随分長いものとなってしまったが、オランダでの習慣や日本との違いなど、読者諸氏に雰囲気だけでも感じ取っていただいたとしたら筆者としても幸甚である。

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Last Update: Sep.23,2007