ノルウェーの男と女

2007年2月23日

北へ2007~白夜とフィヨルドの国から【第3歩】

雪景色のトロンハイムより(撮影2007年2月10日)
▲雪景色のトロンハイムより
(撮影2007年2月10日)
私と彼が婚約した時の図(2006年12月)
▲私と彼が婚約した時の図(2006年12月)
ノルウェーでは婚約時から結婚指輪をはめる。
それでも法 律的にはサンボーエよりも弱い立場である。
猫の置物のカーテンに映った影(撮影5月)
▲猫の置物のカーテンに映った影
(強い陽射しが得られる5月撮影)

今回はノルウェーで生活をしていて、私自身がおもしろいなあとおもった制度を紹介したい。

今現在私は一人暮らしをしているのだが、ノルウェー滞在一年目は彼氏と共に住んでいた(現在彼は仕事の都合で他の街に住んでいる)。その一年目の頃に、滞在許可書申請や病院等で自己の情報を書き込む際、社会的立場の表記がおもしろいと思った。

日本だと『未婚もしくは既婚』の二択で済まされそうなところが、こちらだと、シングル、サンボーエ、既婚、離婚、重婚(これはアラブとかの特殊な文化の人用)、パートナーシップと選択肢があるのである。
ノルウェー語をあまり介さなかった私としては、選択肢の意味もわからず未婚(シングル)を選んでしまいがちだが、実は私の立場は、サンボーエ(同居を意味する)なのであった。きっとこれは日本語にすると内縁(の夫、妻)といったなんとも湿っぽい、ネガティブなイメージを喚起させる単語にされてしまうのかもしれないが、こちらだとあっけらかんとした単なる事実であって、どちらかというとポジティブなイメージだ。法律的にも婚姻とほぼ同等の権利が約束されているので、20年連れ添っているのに、サンボーエのままという人も実に多い。

言いたかったのは、私は単に彼が住んでいた家に越したのであって、二人の関係性に関して、互いに一筆たりとも書いていないのに、自分の社会的立場が変わっていた点である。確かに私の場合、越してくるという決意はそれだけのものを含んでいたので、決して間違いではなく純粋に現象をあらわしていると言えると思う。

私は異国に越してきたので、そういう決意みたいなものを持っていたが、普通のノルウェー人の場合、そこまでの議論なしに、同棲することが多いように思う。
第二歩で前述したように、学生でも経済的に親から自立していて、また単身者用アパートが非常に限られているので、友人等とシェアする人が多く、それならカップルでというのは自然な運びだ。結果としてそのまま結婚せずに、サンボーエでいる人が多い。子供が出来ても結婚しない人は多い。これはヨーロッパ(一部の国をのぞく)ではだんだん常識になってきているが、日本ではそうは親御さんが許さないというのが実態ではないだろうか。

しかしその自由な発想のもとに、ノルウェーの出生率(女性が一生のうちに子供を生む数)は回復し、現在1.89である。それにひきかえ日本は1.29である。つまりノルウェー人は結婚しないし、しても離婚率が高いにも関わらず、子供はばんばん生まれているのである。普段の生活でも子供を多く見るので、数字以上に多いように感じる。それを支えるのは、もう一つのおもしろ制度、育児休暇制度によるところが多いと思う。

イースターの卵ペイント
▲イースターの卵ペイント
(わが婚約者の作)
ロロスのお祭りで踊るノルウェー人カップル
▲世界遺産の地ロロスのお祭りで
踊るノルウェー人カップル
(毎年2月開催)

基本的にノルウェーには主婦が存在しない。ひと昔前の世代には多くいたようだが、今の働き盛りにはほぼいない。ではノルウェー人女性は日本人女性と比べて極端に、体力があり、パワフルで、意志が強く、育児と仕事を両立してきたのだろうか?

違うと思う。単にシステムの差だ(そのシステムがある、ないによって、伝統的価値感への揺さぶりの差、また男性の考え方の差としてあらわれ、女性の自身に対する考え方が違うというのはある)。4月執筆予定の第5歩「仕事の仕方と男女平等」でもまたその辺りは述べたいと思うが今回は育児休暇制度について書こう。

ノルウェーの育児休暇制度:
カップル(もしくは夫婦、つまり子の親。結婚してなくてもいいのが味噌。ここにもサンボーエの効果)で合計して、100%の給料で10か月の有給もしくは80%で12か月の有給が与えられる。そのうち子供の出生後の二週間は両方の親が同時に取ることが出来、カップルで合計の10か月もしくは12か月のうち、計一か月は男性がとらなければその一か月分は消滅する。
この制度は、雇い主の負担と政府からの補助金双方で成り立っている。雇い主は一時的に戦力を失い、その間の経済的負担もあるが、国民全員が享受できる権利として、また社会として出生率確保の重要性から、雇い主側もこの負担を負うことを、政府・国民の双方から求められ、どの会社も実行に移している。

日本では育児休暇制度は存在するのに、使用されない。特に男性の場合はそういう傾向が非常にあるが、こちらでは女性よりは一般的に短い期間であっても、男性も普通に育児休暇を取るのである。一生仕事をしていき、家庭も築きたい一人の普通の女性として、私がこの事実を知った時、思わずほくそ笑んだことを認めておこう。

ノルウェー人の国民性として、純粋に幸せを求めるというのがあると思う。非常に人間的で、素朴である。幸せでいることを自然に追求し、まわりの人がそれを追い求めるときも決して反対せず、とても喜んでくれる。形式にこだわらず、世間体が薄い。その結果や女性の経済的独立も伴って離婚率は高い。

日本とノルウェーとどっちがいいというようなものでもないが、多様な生き方を認めることと、人に無理強いをしないこと、多くの人が幸せに生きているようにみられることを考えると、ノルウェーって住みやすい国だなと思わずにいられない。初めに書いた社会的立場の選択肢の一つ「パートナーシップ」は、同性のカップルに法律的な保証、生き方の選択肢を与えていると思う。

いろいろな国の人と接してみて、生き方の差は人種の差によるものだけでなく、人の心は同じでも制度によってあらわれる結果が変わってくるのだと私は理解している。