六稜トークリレー Talk Relay【第32回】2006年7月1日

    黒田秀也さん@84期 
    KURODA Hidenari

    「白い巨塔」今は昔〜混迷する日本の医療はどこに向かうのか

    黒田秀也さん@84期(くろだクリニック院長)

    祖父、父、叔父、伯父、いとこなど、血縁者に北野OBが10人以上もいる、生粋の北野人。 1979年大阪大学医学部卒業。1986年同大学院修了、医学博士。大阪大学医学部病理病態学教室学内講師、大阪警察病院泌尿器科医長、協仁会小松病院泌尿器科部長、大手前病院泌尿器科部長を経て、2001年より泌尿器科くろだクリニック院長。現在、大阪大学医学部非常勤講師、国立循環器病センター非常勤医師、日本臨床泌尿器科医会理事・広報委員長、大阪泌尿器科臨床医会常任幹事・財務広報副委員長。

    かつては「白い巨塔」の財前五郎のように、大学教授に憧れ、精進してそれを目指す医師も多かった。大病院の外科部長なども、医師にとって羨望の地位であったはずだ。しかし今では、明らかに事情は変わってきている。

    大学や大病院の勤務医には、独立開業などで病院を離れたがっている医師が増えており、優秀な医師がどんどん一線の病院から退職している、という現実がある。その結果、実際に日常診療に支障をきたす病院も出てきており、特に、麻酔科、小児科、産婦人科の医師不足が深刻になっている。

    毎年毎年8000人もの新しい医師が誕生しているはずなのに、どうしていつまでも医師不足は解消せず、逆に医師不足に拍車がかかるのだろう。経済的な面だけをみても、少なくとも最近までは、「医師の給料は高い」と、マスコミは報道してきたのではないのか?そんなに給料や待遇が良いなら、希望者が殺到してもいいだろうに。

    医師不足だけの問題ではない。
    現在のわが国の医療現場では、これまでになかったさまざまな問題が浮き彫りになってきている。

    知る人は知るとおり、すでに多くの病院は破産寸前の経営状態に陥っており、最小限の人員で、最低限の人件費で運営されている。患者の治療費未払いは急増しており、それが病院の経営を圧迫するまでに至っている。

    追い打ちをかけるように、この4月に医療費は3.16%切り下げられた。もしこれが5%だったら、全国のほとんどの私立医大附属病院は倒産してしまうだろう、と言われているほどの数字である。

    そして連日のように報道される医療過誤の記事。それらはいっそうの医療不信を生み、ますます最前線の医師を追いつめる。

    なぜこんなことになってしまったのだろう。そして、この先にあるのは何なのだろう。

    混合診療の導入、国民皆保険の崩壊、外資を中心にした医療保険の民営化、財ある者のみが高度な医療を享受できる格差社会…

    こんな時代だからこそ、医療者も患者も正しい情報を共有し、誰にとっても身近な問題である医療を守っていかねばならない、と思う。大学の基礎医学の研究者、大病院の外科系部長、そして開業医のすべてを経験した一介の町医者のよもやま話が、その一助となれば幸いである。

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    チラシ
    公式チラシ(JPG,508KB)



    Last Update : Apr.18,2006