太陽電池と「低い国」と〜民間企業研究者の海外転職記【第25話】
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オランダから見たドイツ《4》研究所とヒエラルキー(その3)


Spring-8(大型放射光施設)
播磨科学公園都市にあるSpring-8(大型放射光施設)
©財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)


 前回は、技官と研究者の関係について述べたが、今回は、研究所と企業、さらに大学との関係について話を広げようと思う。

【研究所とはなにか】
 研究所、と聞くと、一般の人はどのようなイメージを抱くだろう。独創的な発明をして文明の進歩に貢献するところ?
 確かにそういう一面はある。しかし、本当の意味で独創的な発明ができるのは、一握りの才能ある天才的研究者だけである。そして、どう見ても、天才的研究者の数よりも、研究所の数のほうが多い。さらに、天才的研究者の中でも、独創的発明をいくつも生み出せる人は、もっと少ない。そうすると、ほとんどの研究所は、独創的な発明は生み出していないことになる。

E=mc2
 では、研究所の主たる役割は何か。
 それは、これまでの人類の先駆者がなしてきた、様々な発明、技術、知識や経験を、よりよい形で組み合わせ、実用化することで、文明の発展に貢献するところ、と言えばいいだろうか。
 独創的な発明や発見の多くは、そのままの形では実用化できない。アインシュタインの相対性理論は、そのままでは一般人には理解困難な発見だったが、後続の研究者たちが知恵を集めてその応用を考えることで、例えば、質量はエネルギーと等価であるという理論(E=mc2)から、原子力エネルギーへの応用の道が開けた。また、その他の例では、運動する粒子の速度が光速に近くなると質量が重くなる、という理論の応用で、粒子加速器を制御している。兵庫県相生市郊外の巨大粒子加速器Spring-8が様々な分野で社会に貢献できるのも、アインシュタインが導き出した公式のおかげである。

アインシュタイン
Albert Einstein
シュレーディンガー
Erwin Schrödinger
ショックレー
William B. Shockley

 太陽電池の動作原理の核になる部分も、アインシュタインの発見だ。彼が1905年に発表した「光電効果」の理論―――光子が電子に衝突すると、そのエネルギーが電子に与えられる―――を、半導体素子に応用したものの一つが、太陽電池である。筆者ら太陽電池の研究者たちは、アインシュタインや、量子力学の祖・シュレーディンガー、半導体物理を切り開いたショックレーの成果をベースに、よりよい太陽電池をより安く作るため、技術の改良を行っている。
 太陽電池に限らず、理工系の研究所の役割の主たる部分は、そのようなものになる。

ユーロ・マネー(イメージ)
 
 では、研究所はどのように運営されているのか。ほとんどの研究所の法人は、一般的な商業活動が禁じられている代わりに、非営利法人として税制などで特典がある。収入源は、研究プロジェクトの受託、企業への技術供与、特許やノウハウなどの知的財産などであるが、それだけでは足りないことが通常なので、研究所組織の出資者から運営資金の補填を受ける。
 ECNの場合、オランダ政府出資の法人なので、年間予算の30%程度、オランダ政府から交付金を受けている。ちなみに、日本の独立行政法人である産業技術総合研究所の日本政府からの交付金は年間予算の約60%、先述のフラウンホーファー研究所のドイツ連邦政府(及び地方政府)からの交付金は約40%なので、ECNの政府への依存率は低いといえるだろう。
 技術供与や知的財産は、過去の成果に対する報酬と位置づけられるが、出資者からの交付金や研究プロジェクトの受託金は、未来の研究成果が期待されているから支払われる。研究プロジェクトの委託金の出所は、国家財政であったり、私企業であったりと様々だが、そう遠くない将来に実用化できる技術の研究成果が求められている。

   ※キャプションの無い写真はイメージ

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Last Update: Jun.30,2008