ポラントリュイだより: ナポレオンが持て余した二人の軍人《その2》

2010年2月28日


一兵士からフランス皇帝軍の元帥に昇進し、その上、一国の王にまで上りつめた男がいる。ただし、祖国フランスではなく、言葉も文化も違う異国にて。 「Jean Baptiste Jules Bernadotte」、ベルナドット元帥の名前はBernadotte(ベルナドッテ)王朝として今日に至るまでスウェーデンの王家に名前を残してい る。


▲スウェーデン・Bernadotte朝初代王・カール14世ヨハンとなったBernadotte元帥
かつて「美脚軍曹」と呼ばれたこともあるなかなかの美男子

▲Delmas館内に現存する、「帝政式」というスタイルの暖炉。
鏡に映っている方は、建物の所有者ニコル氏に掛け合って撮影許可を取ってくれたアダット・ガイ ド協会会長

▲暖炉中央の彫刻にローマ風のナポレオンの横顔が・・・。追放後も尚、Delmas将軍が皇帝ナポレオ ンを敬っていたことがうかがえる。

1763年、弁護士の子として生まれたBernadotteは、親の反対を押し切り、1780年、フランス陸軍に入隊した。フランス革命では熱心なジャ コバン(急進的な革命推進主義)支持者となる。体に「王侯に死を」という刺青をしていたとさえ言われている。
革命勃発後はドイツ・北イタリアに転戦して武勲をあげ、1794年に陸軍少将に昇進。平民出身の将軍は国民にも人気があり、ナポレオンのライバルとされ たこともある。1799年のクーデターでナポレオン政権が誕生した後も、Bernadotteはナポレオンとは距離を置いた関係だった。 Bernadotteは先のクーデター参加も拒否していた。やがて、権力志向の強いナポレオンへの軽蔑と嫌悪を露わにし始めた。それにもかかわらずナポレ オンがBernadotteを許していたのは、かつて自分が婚約を反故にした女性、デジレ・クラリーを妻としてめとってもらった負い目があるからだと言わ れている。

1804年、ナポレオンが皇帝に即位すると、Bernadotteは元帥の一人に抜擢され、1806年にはイタリアのポンテコルヴォ大公の位も与えられ ている。その昇進に見合うだけの武勲を残していないBernadotteにこれだけの栄誉を授けるのは、デジレへの罪滅ぼしをしたい一心だったのかも知れ ない。

1809年、スウェーデンで軍事クーデターが起き、反ナポレオン派のグスタフ4世が廃され、その叔父カール13世が王位につけられた。この老いた王の皇 太子は間もなく急死し、後継者を急ぎ決めることになった。この時、ナポレオンへの使者となったメルネル男爵は、Bernadotte元帥を王位後継者候補 にしてはどうかと申し出た。
実は、かつてメルネル男爵はBernadotteの捕虜となっていた。その時、他の軍人と共に親切な対応を受け、寛大な処置を施されたため、恩返しの機 会を狙っていたと思われる。また、Bernadotteはその善行により、スウェーデン国民の間でも人気があった。スウェーデン国会とカール13世は Bernadotteが「プロテスタントに改宗する条件で」後継者就任を決め、Bernadotteも了承した。
北方に同盟国を欲していたナポレオンであるが、デジレへの贖罪の念もあったのだろう。デジレをフランス皇后にはしてやれなかったが、スウェーデン王妃に できるのである。 ナポレオンに反感を持つBernadotteに頼るという安易な政略に、冷徹な帝王になりきれなかった「情の人」ナポレオンの悲劇の発端を見られずにはい られない。

1810年にスウェーデン国王の摂政となったBernadotteはナポレオンの信頼を裏切って反フランス的行動を取るようになり、1812年にはロシ アと同盟を結んだ。 ナポレオンのロシア遠征の失敗に乗じ、また、ナポレオン軍の内情にも通じているBernadotteは、反ナポレオン同盟軍に積極的に貢献した。これが 1813年10月の「ライプツィヒの戦い」である。

この戦争の半年ほど前、返り咲いた男がいる。
1813年4月10日、勅令再興式の際、「刺繍も装飾も無い」フランス共和国の使い古された青い軍服に身を包んだ男が現れた。
「私はまだフランスのためにご奉仕できます。私を好きなように使って下さい」 豪華な軍服に身を包んだ皇帝の取り巻きは古臭い装いの見知らぬ男を見て冷笑した。しかし、ナポレオンは進み出て言った。
「皆さんに紹介しよう。共和国の第一前衛将軍、Delmas将軍だ。」

追放から11年。Porrentruyから駆けつけたDelmas将軍は再びナポレオンに身を捧げ、最前線で戦うことになるが、それは彼自身の悲劇をも 意味していた。


Mes remerciement particuliers s’adressent a :
Monsieur Jean-Claude Adatte (Président de l’Association des guides touristiques de Porrentruy et environs, ポラントリュイガイド協会会長)
Monsieur Francis Nicol (propréitaire de Maison Delmas, ニコル館所有主)