ポラントリュイだより: スイスグルメ話~アジョワ名物編~

2010年2月28日


「アジョワ」(Ajoie)という地域名は全世界的には馴染みがないし、スイス人でも知らない人の方が多いかもしれない。しかし、その「知る人ぞ知る」 アジョワは、一年に一度、ある行事に参加する人々により、異常なまでに人口が膨れ上がるのである。

スイスのカレンダーを見ると、各日に聖人の名が記されている。11月11日は聖マルタン。聖マルタンは動物をいさめたり憑いた悪霊を払ったりしたことか ら動物の守護聖人としても聖別されているが、その日辺りの週末(11月の2週目の週末)、アジョワ地方は「聖マルタン祭り」に突入し、豚料理一色に染ま る。
この週末に備え、各農家は多くの豚を屠殺する。祭りの由来は聖人というよりも(豚自身は聖人の恩恵をちっとも受けていない!と嘆いているだろうか)、元 々はこの時期に農家は収穫を終え、長い冬に備えて食べ物の貯蓄準備に入ることから来ているそうだ。干し肉やソーセージなど長期間置ける加工食品を作る。大 切な命の源の豚君には犠牲になってもらうが、頭から足までしっかり食べてあげる。

この週末は、聖マルタンのための特別コースメニューを用意するレストランや特設会場がほとんどだが、聖マルタンの「メッカ」と呼ばれるシュヴネ (Chevenez)村に行く人は予約をした方が無難である。本式のメニューでは10数品目あるが、シュヴネ村の特設会場ではその半分。地元アクロバット チームによるダンス・ショーや、バンドによる民謡演奏(といっても日本と比べるとかなり賑やか)付きである。半・メニューと言っても、小食の日本人には多 いぐらいである。私達が食した皿をご紹介しよう。

まず、豚の頭を煮込んで出た汁を固めたゼリーに包まれたパテ(写真①)。しっかり固められていて、ご覧のように皿を回しても落ちない!


①フリスビーにしても大丈夫?
回転させても落ちない、パテのゼリー固め

②豚の血入りソーセージ
見て地獄、食べて天国かどうか?

③ソーセージの皮を切ると、中途半端に
固まった中身がどどっと飛び出してくる

二品目は、見た目グロテスク、味は・・・かなり癖があるが、「臓物大好き」な方は大丈夫だろう。豚の血のソーセージである(写真②③)。これだけでは辛 い、という人のためにリンゴのコンポートが添えられている。私は最初は一口しか食べられなかったが、リンゴのコンポート(リンゴを小さく切って砂糖をお好 みの量で入れ、長時間煮る)を大量につけて毎年少しずつ食べる量を増やしていき、去年、ついに一本丸ごと食べることができた!(私もやっと正真正銘のア ジョワ人になった……笑)赤い野菜はテーブルビートと呼ばれる根菜の一種である。
その後、口直しにシャーベット(アルコール入り)が出る。特設会場の舞台上ではミュージシャンが音楽を演奏し、食事の合間に客は歌って踊りまくる。こう して腹を少しばかり減らしてから次の皿に挑むのである。

お次はドイツ語圏でもお馴染みの、塩漬けキャベツの千切り煮込み、シュークルット(ドイツ語ではザウアークラウト)。一緒に煮込む定番食品は、ラードと 呼ばれる脂肪の多い肉、ロース肉、そしてアジョワ産ソーセージ(これがまた美味!)とじゃがいもである。
デザートは店によって異なる。クリームブリュレという、日本でもお馴染みの、カスタードクリームをガスバーナーで焦がした一品は万人向けであろう。これ だけの料理を食する間、大量のワインが消費されているのは、書くまでもない。酔っ払ってもいいように、特別バス(有料)が一晩中Chevenez村とポラ ントリュイの間を往復している。


④口直しのシャーベット
この年は「ケ・セラ・セラ」の歌詞が配られ全員で合唱

⑤こんな風に騒いでも踊っても椅子の上に立ち上がってもすべて
無礼講!踊らにゃ損、損!騒ぐだけ騒いだら今度は 食べまくる!
⑥シュークルットにたどりついた頃には、正直、
小さな私のお腹?はもう一杯。拷問の一品。

⑦お腹が一杯でも「これぐらいの量なら大丈夫
かな?」と、つい食べてしまうクリームブリュレ。

最後に、豚肉料理はあまり・・・という人のために、アジョワでは様々な魚も食べられていることをお知らせしよう。写真⑧は、第38話「陶器の村、ボン フォル」でも紹介した池の傍に立つ看板であるが、このように、鯉やパーチ、カワカマスという魚や写真⑨のようなマスのムニエルも名物である。レストランの メニューには、肉料理と並んでほとんどと言っていいほど、魚料理もお勧め品として出ている。スイス旅行中、肉に飽きた人は、是非アジョワでお試しあれ!


⑧本当にこんな色? と疑いたくなる、ボンフォル池に生息の魚達。この地方の名物は鯉のフライ。臭みもなく、からっと揚 がっていて美味。

⑨我らがWebmaster谷さんをお招きした時。
サンチュルザンヌの川沿いのレストランで谷さんが食されたマ スのムニエル。