2007 SanDiego Fire

2012年9月6日

長女は、MBA(経営学修士)を卒業後、S社に就職が決まった。S社は日本発の世界規模の大企業で、アメリカの本社はRancho Bernardo にある。この本社から車で1分のところにアパートを借りて、新入社員としての生活を張り切って始めた。20071014日に引越しパーティ(housewarm)をするというので、私はLAの自宅を午前中に出た。

405号線をサンディエゴに向かって南に下るにつれて、太陽がだんだん近くなってくるようだ。フリーウエイのすぐ西に太平洋が開けるあたりは、Lagna Miguel Mission Viejoなどの高級住宅地だ。San Onofreには、有名な原子力発電所がある。1基は25年間稼動して92年に閉鎖され、2基、3基は1982年ごろから稼動し、現在、それぞれ1080メガワットの発電量である。2011福島の原子力発電事故の教訓以来稼働量は激減していると聞く。

南カリフォルニアエジソンの持つ、その大きな球のような形があらわれた。そこから15分ほど南下してから、内陸のRancho Bernardoに向かう。

砂漠からサンタアナの熱風が吹きつけてきて、フリーウエイ沿いの椰子やユーカリの喬木が大きく揺れている。時速70マイルの熱風のおかげで気温が一気に30度を越える。太陽がまぶしくてサングラスに替えた。

娘のアパ-トに着くとさっそくプールサイドでBBQをはじめたが太陽がオレンジ色に翳ってきた。

「まるで中国大陸から流れてきた黄沙のようですね。空気がキナ臭く、目に沁みます」

と僕がいうと、

「ここは盆地みたいに低まっているんですよ。風も強くて、格好のfirecrackerといわれているんですよ」と落ち着いていた。

翌朝15日、しかしこのアパートは非常事態となり、S社も休業、一帯の住民は避難命令が出て、娘ともども405号線を7時間余りかけて北上し、PVの我が家まで逃れてきた。

サンディエゴのワイルドファイアから一週間がたった。S社が再開し、娘は新しいアパートに再び引越しの手続きをしている。

「おかげで会社への忠誠心を学びました。仲間意識も成長しました。命さえあれば燃えたものは何でも、取り返しがつくものですね」

困難を通して娘の成長ぶりには、目を瞠るものがある。


 
2007年のは、サンディエゴでは200411月に続き二度目の大火である。カリフォリニアは雨が少なく気候が温暖な反面、砂漠からの強い熱風などで自然発火することが多い。

これらのワイルドファイアにより火災保険の存在がクローズアップされている。各保険会社は被害者にどこまで親切に対応しているか、ニュースを通して宣伝している。持ち家の人にはhomeowner’s insurance また、アパートを借りている人にもrenter’s insuranceがある。ベッドや家具、コンピュータや貴金属などの持ち物にかける民間の保険もある。国や州の災害支援活動は対応が遅く、内容も満足できないと訴えている人がTVで放映されていた。

米国の健康保険制度は、民間保険が主流で、国や州の健康保険は、低所得者や高年齢層のための保険が中心である。しかし、米国には日本の国民保険のようなものはない、というのは誤りである。また、国や州の保険にさえ入っていない人たちに医療を提供する公的病院も、十分の数ではないが存在する。民間保険では、ディダクタブル(最初の自己負担金額の上限)があり、それが少ないほどいい保険ということになる。その上限を超えた場合、越えた分の全額を支払うハイエンドのものから、30%は自己負担となるような保険までさまざまある。リスクを多くカバーする保険をデザインしようとするとそれは、自己負担金が少なく、医師を自由に選択できる保険になるが、そのような保険は掛け金が毎年高騰していて、家庭あたり月に$1000を超えるほどだ。このような、自己負担金の少ない良い保険に入っている人は、高くて優秀な医師にかかれるので、医療費のさらなる高騰を招く。そうすると保険会社は掛け金を増やさざるをえない、という悪循環に陥る。

2006年に民間の保険会社は国を動かしてHSA(Health Savings Account)と呼ばれる新しい保険を作り出した。これはまず、個人の掛け金が大幅に少ない。いっぽうで、緊急入院や救急のときの自己負担金が高くなる。月々の掛け金の減ったぶんをHSA口座に蓄えておき、いざというときに役立てようという、考えだ。健康管理をしっかりすることが体とお金と両方をSAVEすることに結びつく。具体的に数字をあげて説明してみよう。病気になったときに医師にかかる場合の自己負担金は年間に$500から$3000と大きくなる。その額を超えた後、自己負担金の%は従来の保険と変わらない。いっぽう掛け金は従来、月々$1000であったものが$600となり、月あたり$400の差がでる。その差額をHSA口座に貯金すると、年間に$5000近くの貯金できることになる。歯のインプラントや白内障などで自己負担金が発生したときにはその口座から支払うという考えだ。 HSA口座に振り込まれる金額は所得とみなされないので、税金の対象にならないという優遇がある。HSA口座のお金は健康・医療のみに利用できるが、65歳以上になれば健康以外の何にでも使えるようになるという厚生年金的な性格も持つ。健康管理をしっかりやって医師にかからないようにするとHSA口座の残高が増えるという経済的なモティベーションがある。健康にたいする個人の意識を高めると同時に国民全体の医療費の増大を防ぐためにも貢献するという、一石二鳥の効果を期待する。