ウィーンの散歩道 ~Mit der Musik【第12話】

2009年1月28日


ベートーヴェンの初期、中期のピアノソナタ


▲自分の練習用ピアノとピアノソナタの楽譜

皆様しばらくご無沙汰していました。遅くなりましたが、今年もウィーンの散歩道をよろしくお願いします。色んな意味で社会、世界が不安定な現在ですが、状況が良くなることを信じて前向きに、自分は何ができるのかを考えて、強くいたいと思います。

さて、ベートーヴェンコンクールの予備予選を2月に控え、初期のソナタ、中期のソナタ、変奏曲に絞り込んで練習を重ねています。

ベートーヴェンの練習は、まず彼が何を言いたかったのか、何をその曲で試みたかったのか、どういう思いが込められていて、どういう理由でそのテンポ、調性を選んで、そのとき彼はどういう状況だったのか、というのを考えたり調べたりすることから始めます。
一人の音楽家の生涯を何年かの勉強で分かろうとしたり、理解しようとしたりするのは傲慢だと思うのですが、演奏する以上は少しでも彼の心に触れないと、 到底あの美しい憧れに満ちた緩徐楽章は弾けないし、悲しみの暗闇も感じることができないし、全身全霊のエネルギーも演奏に現れません。そういった背景がま ず最初にあって、旋律のフレージングを統一させる練習や、旋律とハーモニーのバランスを調和させる練習、一定したテンポで弾く練習、難しいパッセージを弾 きこむ練習、曲の中でのドラマ、キャラクターを演出する練習、音色をぱっと変える練習などをその日の調子や気分でしています。最近ではインターネットを利 用して、色んなピアニストの演奏を見たり聞いたりできるのでとても参考になりますし、自分で弾いたものは録音して必ずチェックもしています。


▲作品10-3の2楽章           作品53の1楽章▲


ベートーヴェン(1770-1827)のソナタは全生涯に渡って32曲が創造されました。前期が作品2-1から作品26までの12曲、中期が作品27から作品90までの15曲、後期が作品101、106、109、110、111の5曲と一般的に分類されていています。

前期のソナタは古典派の形式を尊重して、第一テーマ、第二テーマ、動機の発展、展開など色々と試行錯誤し取り組んでいた時期で、作品番 号が増えるごとに新たなベートーヴェンの試みが楽譜から読み取れます。緩徐楽章は、これまでの古典派にはみられないラルゴとかグラーベというきわめて遅い テンポを用いて、魂に語りかけるような深い思想的な音楽を作り出していて、まさに人間ベートーヴェンの音楽です。

中期のソナタはよく<傑作の森>と表現されているように、おびただしい数の名作が生まれていて、ピアノソナタでは<ワルトシュタイ ン>作品53、<熱情>作品57、交響曲は第3番のエロイカをはじめとし第5番の運命、ピアノ協奏曲皇帝。バイオリンだと、クロイツェルソナタ等……。古 典派音楽構造の拡大、発展、構成、内容の研鑽があったと共に、青年から壮年に成長する過程で悩んで、恋をしたり、愛したりしながら、運命(音楽家なのに耳 が聞こえなくなったこと)に向かって生きていかなければならなかった孤独なベートーヴェンの魂が、それらの作品に表れて出てきたのでした。

ベートーヴェンは3つの想念を具体的に持っていたようです。「情熱的な感情の嵐の世界」「清涼な叙情的世界」「アポロン的な明るさと 輝きに満ちた理性の世界」。この3つですが、その中で悲哀、歓喜、誇り、愛、憂鬱、勇気など色々な心情なりメッセージがあったりするわけです。それをどう 捉えて演奏できるか、どう立ち向かうかが鍵だと思います。

私のプログラムは初期が作品10-3、中期が作品53なのですが、どちらも高校生の頃から度々、重要な場面(京都・ウィーン両方の大 学入試、卒業試験、初リサイタル、コンクール)で弾いてきた曲です。当時はうまく行ったときは『弾けた』と思っていたわけですが、今振り返るとたくさん反 省することがあって、きっと何年後かには今の私の状況もそういう風に思い出したりするのかな……とも思います。ですが、たとえそうであったとしても、その 時々において自分にできる精一杯のことをして、自信をもって演奏したいと思います。

次回は変奏曲についてです。