六稜NEWS-071020

66期同期会

reporter:清水正昭(66期)

石川啄木のうたに「己が名をほのかに呼びて涙せし 十四の春に戻るすべなし」というのがある。青春は二度と戻ってはこないというのを大変感傷的に歌ってわたしの心に残っている。しかしほんとうにそうだろうか。その昔心躍らせて読んだ本を再読したり、懐かしい場所を訪れたり……、今日は青春時代を過ごした母校に来て、しかも旧友たちと再会している。そうすると気分はたちまち青春時代に戻り、古希を過ぎた「かれ」や「彼女」は「あの子」「この子」に変貌する。十四の春に戻るすべはあったのではないか。もし、肩が痛いとか、腰が痛いとか、病気の話さえしなければ。(同窓会では、病気の話で雄弁になるのは避けたいもの。)

昔、ギリシャ時代の哲学者にディオゲネスという変わった人物がいた。昼間にちょうちんをぶら下げてアテネの町を歩いて、どこに人間がいるのかと探してみたり、アレキサンダー大王がこの有名な哲学者に会おうと目の前に来て、何か望みはないかとたずねたとき、かれは「いま昼寝をしているのでそこを退いてくれませんか。日陰になるので」、といったという。そのディオゲネスが老年を迎え友達から「キミはもう年寄りだ。こんごは力を抜いてくつろぎたまえ」といわれた。するとディオゲネスは「なんだって、もしぼくが長距離ランナーだとしてゴール間近かになったとき、力を入れるのでなく力を抜けというのかね」と応じたという。

われわれも、70年を越す長距離を走りぬいてきて、ようやくゴールが見えてきた。(最もあまり早くゴールインはしたくないが……)漢詩の構成の「起承転結」でいえば全体をまとめあげる第4の結句にあたる部分を生きている。音楽でいえば最終楽章を奏でているといえようか。ここで、力を抜いては駄目だ。残る人生を精一杯生きようではないかとディオゲネスは教えてくれているのだろう。

「青春は酒なしに酔い、老年は酒によって若返る」ゲーテの言葉だ。今日は旧友と酒を酌み交わし大いに若返ろうではないか。



Last Update : Nov.30,2007