六稜NEWS-070628
冨田江里子スペシャルトークライブ


reporter:末廣由夏@103期

 ライブ会場の様子
▲ライブ会場の様子
 フィリピンで活躍する助産師、冨田江里子さんを迎えてのトークショーが、平成19年6月28日、京都で開催されました。私は、同じ助産師として「自然に人間らしく生まれてくること」の大切さに着目した彼女のフィリピンでの支援活動に共感し、彼女の活動を支援する団体のメンバーとして参加することになりました。当日は、彼女の活動支援募金係を担当しました。
 トークショーには定員をはるかに超え、立ち見客が出るほどになり、100人近くの人が関心を寄せてくださるほどの盛況振りでした。 京都の町屋を改装したイベント会場は、クーラーも追いつかないほどの熱気に包まれました。

 このトークショーで冨田さんの話を伺うまで、真の国際協力について、ピンと来ていませんでした。国際協力の具体的な方策、また、国際協力を受けた後に残る暗い影について知ることができ、目の前の霧が一層二層と剥がれていった感じがしました。

 貧しいという言葉を聞いて、どのような感情を抱くでしょうか。富める人間は、可哀相だと思うようですが、違います。貧しいからといって可哀相とは限りません。

 先端の医療を受けられ、救命されたことを幸運だと思いますか。そうとは限りません。医療を受けられたからといって、そのあと、それを維持できなければ明らかにQOLが低下し、もしかしたら医療を受ける前に比べて不幸せになってしまうことだってあります。発展途上国で、医療支援を受けないといけない経済的な階層の人たちは、医療を受けた後のアフターフォローをしていくだけの経済力を伴っていないのです。フィリピンで鎖肛という先天性の障害をもって生まれてきた子がいました。アメリカの医療団が、ストーマ造設術を施したそうですが、その子の親は、ストーマにつけておくバッグなどの購入費用を捻出できない貧困層だったそうです。この赤ちゃんは術後管理を受けることが経済的に困難であったため、術後3日目に病院から強制退去させられ、術層が治癒せぬまま、感染を起こしながら過ごさないといけないことになりました。また、この赤ちゃんは、ストーマから便を垂れ流している状態で、おなかに大きなオムツをつけていなければいけなくなりました。しかし、便臭がするため、一家は村八分にあって、孤立無援になってしまったようです。国際支援は、点での支援ではいけない、線・面での支援であり続けないといけないのです。

 周産期に見られる国際協力による陰は、医療器械の導入による悲劇です。ドップラーといって、赤ちゃんの心拍を確認する機械があります。胎児は成長していきます。子宮も大きくなっていきます。それと共に、心拍が聞こえる位置も変わります。また、胎児の姿勢(頭位、骨盤位など)によっても心拍が聞こえる位置が変わります。そういうことを充分に教えないと、ドップラーの機械の操作方法を知ったとは言えないのです。つまり、医療器械を使用する際には医学的知識が必要なのです。
 妊娠8ヶ月の人が、妊婦健診の時にドップラーを誤った場所で使用されたために「赤ちゃんの心拍が聞こえないからすぐに帝王切開をして産ませないといけない」と診断され、緊急帝王切開を受けたそうです。その土地では、この週数の赤ちゃんが生まれた後のケアを担うNICUもありませんでした。元気に生まれてきてくれた赤ちゃんは、NICUがないために、亡くなってしまったそうです。緊急に赤ちゃんを産ませる必要もなかったのに、機械の操作方法、それを駆使するための医学的知識が充分でないがために起こってしまった悲劇なのです。

 真の国際協力とは何か。

 人対人の根っこの部分で、交流をしていくことなのです。相手に本当に何が必要なのかを知るためには、相手の生活をしっかりと見ていかないといけないのです。それだけではなく、自分の能力の限界も知らないといけないのです。現地に行った日本人は、トイレの仕方を教えてもらわないと排泄できません。どの井戸の水が飲める水なのか、飲めない水なのかを教えてもらわなければ、生命を維持することすらできないのです。自分達に何かをするためにきてくれた日本人が、自分達の力を必要としているということを、現地の人が実感することで、現地の人たちの重要度が変わってくるのです。支える人が、支えられている。それに気づくことによって、真の国際協力を始めることができるのです。

 フィリピンで働く冨田さんは、人と人とのつながりの大切さを教えてくださったと思います。感謝。

Last Update: Jul.4,2007