われら六稜人【第44回】平和構築の現場で

第6幕
民族分断の町

ミトロビッツァの橋にて、対峙する両民族
ミトロビッツァの橋にて、対峙する両民族

ところで、このミトロビッツァという町はコソボを象徴するようなところなのですが、町の真ん中を流れているイバール川の北側がセルビア系住民の居住地区、 南側がアルバニア系住民の居住地区となっています。私がいた当時は、橋を渡って反対側に行くとお互い命が危ない、という状況でした。私たち国際スタッフは 民族紛争の当事者ではありませんのでそれ程危険を感じることはないですから、私は北側に住み、橋を渡って南側にある市役所に働きに行くという毎日でした。 双方に仕事仲間や友人がいましたので、よくお茶をしながら話をしましたが、普段は笑顔の素敵な人たちが紛争の話になると途端に顔を歪め、相手側がいかにひ どいかを力説するというような場面に何度も出くわし、民族間の憎しみの深さを実感させられことが度々ありました。でもそれと同時に、双方とも橋の向こうに 多くの友人がいることも見えてきました。民族という単位では憎しみが支配するけれども、個人という単位では未だに電話などで連絡を取り合っているという二 重構造がそこにはありました。

ドキュメンテーション・センターのスタッフたち
ドキュメンテーション・センターのスタッフたち

結局UNMIKでは約2年間仕事をしました。苦労して立ち上げたドキュメンテーション・センターはそのまま市役所の住民登録課へと発展してゆき、私が去る 頃には約20名の現地スタッフが自分たちだけで業務を遂行してゆけるだけのレベルに達していました。紛争後の廃墟から、よくぞここまで来たという思いで胸 が一杯になりました。住民登録課だけでなく、教育課、医療保健課、土地管理課なども何とか最低限の住民サービスを提供できるレベルには回復していました。 それぞれの部署で国際スタッフと現地スタッフの協力が実を結んだということですね。

コソボの地位に関しては、国際社会の仲介のもと、セルビア当局とコソボ当局の間で協議が続けられていますが、なかなか妥協点を見出すには至っていません。 「コソボの独立を支持する」と公言するある大国の姿勢によって、交渉はコソボ当局にとってあまり意味のあるものではなくなっています。セルビア側は色々と 妥協案を提示していますが、コソボ側は突っぱね続けていれば、いずれタイムアウトで独立が手に入るだろうというスタンスです。いずれセルビアはEUに加盟 するでしょうから、国境がなくなってくる部分と、国境が新たにできてしまう部分が同居するということになるのかも知れませんね。

ログイン