われら六稜人【第39回】がちゃぼいマンガ道

第9話
日本製アニメの評価

    アメリカへ『鉄腕アトム』を持って行きましたら「アトム」という名前が使えない。何故かというと、スラングで“おなら”のことを指すんだそうで、いくらな んでもテレビでは使えない。それで「アストロボーイ」と言う名前に変えさせられてしまいました。
    また、アトムの性格そのものは買ってくれましたけれど、ただ一つ困ったことはアトムがロボットだということ。ロボットの少年ですが、天馬博士がせっかく 作った自分の息子代わりのロボットをサーカスに売ってしまうことになる。それが向こうでは人身売買だというわけです。自分の息子を(いくらロボットとはい え)サーカスに売りとばすとは何事だ、と。
    もうひとつ…ロボットだけど、アトムは非常に物をぶっ壊す。ぶっ壊すのはいいけど、相手のロボットをばらばらに破壊してしまう。これは殺人じゃあないか。 ロボットだから「殺人」というのもおかしいんですけれど(笑)、やはり、生きて動いているものを殺すことになるわけです。そういうことから「非常にまず い、残酷である」と言って向こうで問題になったことがありました。一番不思議だったのは…ニューヨークに住んでいる日本人のある銀行の支店長の一家で、これが「日本から来たテレビ番組だ」ということで子供に見せたらしい んです。すると、子供が顔をしかめまして、テレビを消してしまった。「怖い」というんですね。
    その支店長いわく「手塚さん。どうして、あんなどぎつい、残酷な、残忍なマンガをアメリカへ持って来たんだ。うちの子供は、怖いと言ってテレビを見な い。」僕にとっては、どちらかというとアトムは大人しいマンガだと思って持って行ったところが、向こうでは非常にどぎつい残忍なマンガと受け取られてし まった…ということがあって、びっくりしてしまったという経験があります。
    ちなみに向こうでは『ポパイ』というマンガも三流マンガ扱いされているわけです。これも非常に物をぶっ壊す…そういったことが子供たちにドギツいものとし て受け取られているらしいのです。

    それから最近は劇画ブームになりまして、例えば『ゴルゴ13』とか『子連れ狼』とか…人をバッタバッタ切ったり、殺したりするマンガが出て来ました。
    皆さんもご覧になったかもしれませんが、最近NHKで「マンガ文化はこれで良いか」という番組がありまして、その時に僕は言ったのですけれど、要するに外 国人が日本のマンガを見た時に、日本人はすごく面白がって見ているけれど、実際には「これは行き過ぎじゃあないんだろうか」と思われてしまうことがある。
    実際に、そういうマンガを外国で見て残忍だとか何とかということを知るには、日本でどんなに受けるからと言ったって、日本人だけが喜ぶんじゃあ駄目で、一 度、海外へ出してみる必要がある。そういう中で、日本の文化が洗練されてインターナショナルになるんじゃないか。そういうようなことを言ったことがありま す。

    クレオパトラ

    だんだん日本の劇画文化も盛んになり、どぎつくなっております。どぎつくなると同時にエロ味がかってきておりますね。そういう悪い傾向は僕はなるべく描き たくない。とは言っても…これだけ仕事をやっておりますから、中にはひどいものもあるんですけど(笑)。やはり自分の信念だけは貫きたいわけです。

    僕がマンガ家になってから29年になります。29年の間、ずーっとマンガを描き続けてきたということは、やはりさっきも言ったように、僕に何とか粘りを与 えてくれた中学時代があったからじゃないかと思っています。僕の信念は、この粘りと共にずーっと変わらないんじゃないかと思うんで、皆さんも、中学時代、 高校時代の思い出というものを大事にして、大人になってから役に立てていただきたいと思うんです。
    もっと、色々とお話ししたかったんですけれど、時間も来ましたんで最後にここで、もうちょっとマンガを描きまして皆さんに見ていただきます。

Update : Jan.23,2001

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