われら六稜人【第15回】舞台に魅せられた男

第6幕
テレビ…その必要悪

    「テレビ」というメディアが登場する前と後とで状況が一変しちゃったんです、新劇界にとっても。テレビ以前は、役者は全員が食えなかったですよ。ところが テレビの登場以降、生活できる俳優とできない俳優とが分かれちゃった。違う方法論でなければ対応できなくなったのは事実ですね。それを、テレビが世の中に 出現しなかった時と同じ感覚で「どっちが大事なんだ」ってバカなことを言ってると「おかしいナ?」という風なことになってしまう。ですからボクは「こうし たらどうだろう…」「あぁもしてみようか…」という集団づくりをね…全部、試してみて(全部、うまく行くとは限らないですよ)…でもね、チャレンジはして みるという方針でやっています。テレビが出現するまでは(みなさんご存じの有名な俳優サンも!)みんな食えないでバイトしてたんですから。ある意味で平等だったんですよ。ラジオと映画し か無かったですからね。ところがテレビが出現してからは、劇団キャリア30年のベテラン俳優が1本も仕事がなくて、去年入った奴がいきなりスターってなこ とが普通にあるわけじゃないですか。それはもう如何ともしがたい…違う価値感で対応していかないと組めない。ボクなんかはそういう端境期にいました。

    ボクも最初の頃は声優のほう…吹き替えで生活が成り立っていたので、テレビは、そうですね…「悪役で飯食ってる」っていうかね(笑)。たまたま悪役ができ るから声がかかってきてる、みたいなとこありますね。9割は悪役でした。最近…年のせいですか、悪役じゃない役が増えてきましたよ。普通のお父さん役と か、殺される側とかね(笑)。
    アニメの仕事は結構多いですよ。テレビドラマが減ってる割にはね。というのは視聴率、稼げますから。もちろん限界はありますけど、ドラマよりは多いです。 ボクも声がかかったらやりますけど…もう、めんどくさくてね、この年でアニメっていうのもね。ま、でもやらないとね…若い子に乗り遅れるもんですから。一 年に何本かはやるんです。だから…声を聞けば、お子サンのほうがボクのことをよく知ってるハズです(笑)。

    最近は声優学校が大阪にもずいぶん出来ましたね。東京の学校がみんな大阪校、出してますよ。ものすごい数です。短いのは半年から1年ぐらいの養成所で、1 学年で1200人ぐらい生徒のいるところもあります。テレビ見てる子が「自分にもすぐやれそう」な気がするんですね。そこに目を付けたやつもプロだなぁ、 と思いますけどね。商売人としてはすごい才覚のあるやつですよ、きっと。
    ブームはやっぱり廃れないですね。アニメの声優がリサイタルやって武道館を一杯にしますからね。たぶん仕掛けたやつがいると思うんですけど…それぐらい ブームなんですよ。CD出してますしね…テレビのヒットチャートに入ってますよ、声優の歌が。深夜ラジオのDJなんかもずいぶん多いんじゃないですか。書 店にも専門誌コーナーありますからね。
    ただ、そういうワケで…ものすごくアニメ人口増えちゃったもんですから、半端なことだとちょっとクリアできないですね、レベル上がっちゃって。相当訓練しないと。もの凄い競争ですから。世に出るのに3年ぐらいかかります。トントンとうまく行って、ですよ。

    ウチの新人なんかも…やっぱり一番最初のマスコミの仕事ってCMが多いんですよ。というのは一番「素材」でできる仕事だから。演技力というよりもね。た だ…どうでしょう、今の景気。来年はマスコミももっとキツクなりますよ。そんなとこに企業が金出してる余裕はありませんからねぇ、ホントに。だから、どう だろうなぁ…演劇界も少なからず影響を受けますよ。でも、いろんな意味でこういう時代ですから…ボクなんかは「手作り」で自分のやりたい仕事を創っていけ ればいいなぁ…って思ってるんですけどね。

    今後ですか?

    どうでしょう…今のマスコミっていうと、多くのパーセンテージは「テレビ」ということになるじゃないですか。今のテレビって、ちょっと絶望的ですよね。 「旅」と「料理」と「クイズ」番組しか無くなってしまうんじゃないですか(笑)。そんなものに…人生の何かを賭けられるかな?という気もしますしね。

    ただ、もちろん…演劇活動の場合、経済基盤というのは、どうやったって舞台では採算取れないですから…個人の生活はテレビという内職で賄うわけですね、結 局は。ところがテレビっていうのは企業の宣伝費ですから…これだけ不況になって来ましたら、一番真っ先にカットされるのが宣伝費ですからね。当然もう、実 業界と同じように不況の波を食う虚業ですよね。ま、どの分野も同じだと思いますけど。

    ウチの場合…外の小屋で年に2本演って、下のちっちゃなスタジオでは年に6~7本演るんですけどね。ボクの出身母体である青年座なんていう立派な劇団の例 だと、年に4本とか5本とか打てるようになりますけど、どうですかね…多くは年に2本定期的に打つのだって非常に苦しいですよ。自前で打ち続けるのはね。
    スケジュール的に…というよりは、むしろ経済的に苦しいです。こんな活動は他に類を見ないんじゃないですか「キチっと予算をたてて常に採算の合わない」と いう活動はね。他に無いと思いますよ、そんなアホなことは(笑)。だからボクは今でも「道楽やってます」って言うんですけど…事実ですね。劇団の新人なん かももちろん「好き」でやってます。だから、よっぽど共鳴したり、よっぽど共有するものが無いとですね…持続しませんよ。

    ボクは「舞台活動をやっていく」…要するに公演を打っていくという面と、構成メンバーの個人の生活を成り立たせていくという面とは、まったく違う方法論を 持っていかなきゃダメだと思いますけどね。マスコミの仕事のほうは完全に個人営業ですんで、個人差があって…そこそこ稼げる人と、まったく稼げない人と… それがお互いに同志を組めるかという問題もありますしね。「経済」が一番の問題じゃないでしょうか。

Update : Dec.23,1998

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