【216回】12月「レオナルド・ダ・ヴィンチ、空飛ぶ機械の夢」

Ⅰ.日時 2020年12月19日(土)14時00分~15時40分
Ⅱ.場所 テレビ講演会
Ⅲ.出席者数 97名
Ⅳ.講師 米田 洋さん@89期 (帝京大学 航空宇宙工学科 教授)

1958年生まれ(東京生まれ、大阪育ち)
1977年 北野高校卒業(89期)
1982年 京都大学工学部 航空工学科卒業
1984年 東京大学大学院 工学系研究科 航空学専門課程修了
その後、富士重工業(株)[現(株)SUBARU]航空宇宙カンパニーに勤務。専門は飛行制御で、数多くの無人航空機(ドローン)開発に従事した。
2014年より帝京大学理工学部(航空宇宙工学科 航空システム研究室)教授日本航空宇宙学会フェロー、日本産業用無人航空機工業会 顧問
趣味はグライダー操縦で、日本でただ一人の足が不自由な障害者パイロットである。
Ⅴ.演題 「レオナルド・ダ・ビンチ、空飛ぶ機械の夢」
Ⅵ.事前宣伝 没後500年のレオナルド・ダ・ビンチは、「飛行」に対して並々ならぬ情熱を注いでおり、鳥の飛行の観察、種々の空飛ぶ機会の構想とスケッチを残しています。飛ぶと言えば手に翼をつけることしか考えなかった時代にあって、非凡な彼は4種類の飛行機械を描いています。講演では、人類が飛行機械を発明するまでの歴史を俯瞰するとともに、レオナルド・ダ・ビンチが描いた4種類の飛行機械について、それぞれが飛行し得る機会であったかどうか考察します。そしてそれが現代にどう息づいているか、次世代の飛行機械、特にパーソナルフライトがどうなりそうなのかについてお話しします。
Ⅶ.講演概要 この講演の詳細は添付の講演スライドのPDFを参照してください。

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米田さんは子供の頃は鉄道ファンであったが、紙飛行機に興味を憶えてからは空を飛ぶことに夢中になり、紹介者の同期の白石さんからも「飛行機バカ」と言われほどで、「NHK凄ワザ」という番組に出演したことがあります。しかし、グライダーで飛行中に墜落事故に遭い、下半身に障害が残って現在車いすの生活をしているが、飛行への夢は絶ち難く、日本で唯一の障害者パイロットと言われています。

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レオナルド・ダ・ビンチ(1452-1519)という名前ですが、ダ・ビンチは「レオナルド村の」という意味なので、この講演ではレオナルドと呼びます。レオナルドは、画家、建築家、解剖学など幅広い分野で優れた業績を残していますが、空を飛ぶという分野でも情熱を注いで研究し、次の4種類の飛行機械を考案し、スケッチに残しています。

① 飛行スクリュー(ヘリコプター) (下図左上)
② パラシュート (下図右上)
③ 羽ばたき飛行機(オニソプター) (下図左下)
④ ハングライダー (下図右下)

画像1

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人類の空を飛ぶことの歴史を振り返ると、次の通りです。

ギリシャ神話にイカロスとダイダロスの話があります。当時、空を飛べるのは神の特権で、クレタ島に閉じ込められていた2人は翼を得てサントニーニ島に脱出するのですが、イカロスは自由に飛べることに興奮して高く飛びすぎ、翼の蠟が溶けて墜落死。神罰を受けたのでしょうか。ダイダロスだけが帰還した話があります。

このように、最初は手に翼をつけて鳥のように飛ぶことを人類は試みてきましたが、タワージャンパー、バードマンと呼ばれる先駆者はことごとく失敗し、高所から墜落して命を落としてきました。

そこで、Think Different、考え方を変えて羽ばたきが無理なら、滑空で空を飛ぼうと、サー・ジョージ・ケイリー(1773-1857)という人が、固定翼の有人グライダーを考案し、飛行に成功したと言われており、その時のグライダーの設計図が残っています。その後、ドイツのリリエンタールも固定翼をつけてベルリンの今でも残っている「リリエンタールの丘」でグライダーによる飛行に成功しました。しかし、彼も1857年に飛行中の事故で亡くなっています。

その後、リリエンタールが残した資料、飛行記録などに触発され、アメリカのライト兄弟も最初は同じくグライダーで飛ぶことを試み、その後、1903年に12馬力のエンジン付きのプロペラ飛行機で人類初の動力飛行を成功させました。

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レオナルドが考えた4つの飛行機械について考えていきたいと思います。

当時の人が手に翼をつけて飛ぶことしか考えなかった時代にあって、レオナルドは手の羽ばたきだけでは重い人間を飛ばすことができないので、脚力も使わないと飛べないと考えていました。また、鳥の飛行の観察から、揚力を受ける翼の形を考えていたというのは画期的なことです。

先ずヘリコプターですが、ローターで浮き上がるという発想は良いのですが、反力を取っていないので、工学的には無理なシステムです。では、人力ヘリコプターが不可能かと言うとそうではなく、実際カナダのトロント大学学生が、2013年に人間の脚力で4枚のプロペラを回して飛ぶ人力ヘリコプターを製作、飛行させています。これは、現代のドローンの原型のようなものです。

パラシュートですが、これは四角錐の布を張って飛ぶものですが、これは近年になって、軽い、丈夫な素材が手に入るようになり、レオナルドのスケッチ通りの形で飛行するのに成功しています。

羽ばたき飛行機(オニソプター)についてですが、手の力だけで飛行するのは無理で脚力を必要とすることをレオナルドは判っていました。そして、トリ、こうもりなどの翼の研究をし、キャンバーの必要性も理解していたようです。この羽ばたき飛行機も、実際カナダのトロント大学で試作され、2010年実際の飛行に成功しています。

最後のハングライダーですが、レオナルドの翼のスケッチを見ると、その後実際に飛行に成功したジョージ・ケイリ―、リリエンタール、タウベの翼はいずれも固定翼で、これは現代のグライダーとして結実しています。但し、レオナルドは、飛行を安定させるための尾翼を操縦するという考えには至っていませんでした。軽い金属、丈夫で軽い化学繊維といった素材が開発されたことにより、今では多くの人が丘を駆け下りで浮力を得て、その後は風に乗って揚力を得て、大空の飛行を楽しんでいます。

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以上の考察から、レオナルドの功績について、以下の通り纏めることができます。

●固定の翼にすべきである
●動力は脚力を使わねばならない
●空気力と重量をバランスさせねばならない
●4種の空飛ぶ機械の構想は確実に時代の先取り出会った。

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「現代の鳥人たち」として以下の事例が紹介された。

人力飛行機:1988年「MITダイダロス88」でクレタ島からサントニーニ島までの115㎞を飛び、冒頭で話したギリシャ神話の故事を再現させた。この記録は、いまだ破られていない。

ハングライダー:ロガロ翼が考案され安定して飛べるようになり、多くの人が楽しんでいる。しかし、この翼の形状はレオナルドのそれと大差ない。

ジェットエンジンとダクテッド・ファンを組み合わせた動力を用いて、ウイングスーツを着て200㎞/h以上の猛スピードで飛ぶ技術も開発されており、高速パーソナルフライトも可能な時代となってきている。

有人ドローン(電気飛行機):中国、ドイツ、カナダなどで次々に開発されており、実用化に近づきつつある。また、多くのドローンが空を飛ぶようになると、自動運転、自働管制しか安全は担保できないので、そうなると誰もが空を飛ぶことができる時代となる。レオナルドの空飛ぶ夢、それはパーソナルフライトでした。軽くて丈夫な機体、電動モーター、大容量の計量電池の開発は、有人ドローンを可能にして、真の意味でレオナルドの夢を具現化したものですし、今後とも更に発展していくでしょう。皆さんも空を飛んでみませんか。(講演終了)

 

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質疑応答

多賀正義(76期):①12月19日は日本で最初に飛行機が飛んだ日とありますが? ② ダクテッド・ファンとは何ですか。

回答:①日本では徳川、日野陸軍大尉が、代々木練兵場で1910年12月19日に最初に飛行機で飛んだ日と言われています。但し、空の日は9月20日。②ダクテッド・ファンとは、原理は換気扇のようなもので、ジェットエンジンを筒で囲ってその中でファンを回して推力を得るシステム。

坂田東一(79期):①ドローンは日本でどんなところが取り組んでいますか? ②規制は?

回答:①トヨタをスピンアウトした若手が、スカイドライブという会社を創立してドローンを開発中。また東大出身の人が、アメリカのBoeingが主催したコンテストの一人乗りのドローン部門で優勝。「ドテトラ」という会社を設立して開発中です。いずれも、ベンチャー企業。大手では、川重が輸送用のドローンを開発中。②規制については、国交省で検討中。国際的なものなので、FAAと共同で規制と安全を担保するように対空規制を作っている。

深田英孝(89期):米田さんはなぜ空を飛ぶことに夢中に夢中になったのか?また今後の夢は?

回答:紙飛行機に興味を持ち、それ以来飛行にのめり込み、飛行機バカと言われるようになった。山男が山に登るのと同じ心境。今後は、自分で作った飛行機で空を飛びたい。

三谷秀史(82期):浮田幸吉という人が、1757年に日本で最初に飛行機を作った人という話は?

回答:浮田幸吉は岡山の人で建具職人であった人。実際のところは良く判らない。地元岡山で資料から実証しようという動きもある。

家正則(80期):ドローンでシングル・ローターや4枚羽といろいろあるが、何が最適か

回答:エネルギー効率とか備品装備等、何を以って最適とするかいろいろ考え方がある。推力から言うと、シングル・ローターがもっとも効率が良い。多くの羽根があると、風の干渉で効率が悪くなる。従って、大きなローターで、ゆっくりと回すと効率が良いが、翼の角度を変えるなど複雑で精密な機械構造となり、メンテナンスが大変、よってコストが掛かる。現在は、モーター直結のマルチローターのドローンが主流。

雫石潔(75期):大型ジェットエンジンは電気式モーターにとって変わるのか。

回答:どこから電気を持ってくるかが問題。ジェットエンジンで電気を起こして、それでモーターを回すなど、本末転倒。バッテリーの問題もある。本来ジェットエンジンは一番効率が良い。また、成層圏を高速で飛ぶのに適している。プロペラだとそうはいかない。もっとも、環境問題も含めて、NASAなどでもハイブリッドの検討をしている。

西尾大次郎(66期):空を飛ぶ夢を抱く。興味のある話で、面白かった。

回答:グライダーは、優雅に空を飛んでいるようにみえるが、実はパイロットは上昇気流を探そうと必死になって戦っており、見た目ほどのんびりではない。完全自動化のドローンができたら、景色を眺める余裕ができるかも。

中山行輝(80期):レオナルドが恐竜、特に翼竜のことを知っていたら、飛行機の実現はもっと早かったか。

回答:レオナルドの知識だけでは飛べなかったわけです。つまり、飛行のメカニズムだけではなくて、軽い素材の開発も飛行機の発展に寄与している。早まった可能性はあるが、せいぜい20年、30年のオーダーの話である。

深田(89期):若い世代に対して、「現代のレオナルド」生むべく、米田さんが若い人に教えていることは?

回答:現在新卒で入社する若い人を見ると、航空力学は知っていても飛行機を知らない人が多い。飛行機がどういう風にできているのかを理解できていない若者が多い。まともに紙飛行機を作ることができれば、これも飛行機を知る一つの道であると思っている。こういったことを教えていきたい

西尾(66期);有人ドローンの安全隔離距離は?

回答:詳しくは判らないが、最初は50mあたりで初めて、最終的には20-30mと思う。

 

【記録:多賀正義(76期)】

Ⅷ.資料 レオナルド・ダ・ヴィンチ_空飛ぶ機械の夢.pdf(13.5MB)
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